6:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2011/03/30(水) 07:56:34.12 ID:9b91y1IMo
鍵はかかっていなかった。だからと言って勝手に入っていいわけはないのだが、相棒は躊躇しなかった。
「ノックはした、誰も出てこない、俺たちは凍えてる、なら入る。この道筋は間違っているか?」
「……いいや」
問題がないはずもなかった。だが、凍えていたのは事実だ。日没が迫り、気温は先ほどよりもさらに下がっていた。
館の中もそう暖かいわけでもない。ただ、衰弱死からは程遠い。
息をついて荷物を下ろした。ついで、中から地図を取り出して床に腰を下ろす。
一点に指を置き、くねくねと延びる線をたどると、数秒もしないうちにそれは途絶えた。
「僕らがいるのはこのエリアのどこかだ」
「ひどく曖昧だな」
街道に沿って迂回するよりも山を一つ越えれば早いなどとかつて提案した相棒の口調は、どうやらウィリアムを責めているようだった。
「……仕方ないよ、まさか山中に入るはずもないからそこらへんはあいまいな地図しか支給されなかったし」
「まさか演習で迷子になるなんぞ、上の奴らも思わなかったろうな」
華々しき王国騎士団の軍事演習。出発時にはまさか寒気に殺されかけるなど考えもしなかった。
あのころに戻りたい。でもできればそれより前、過酷な騎士団に見習いとして放り込まれる前のささやかながら幸せな生活に戻りたい。
(父さん……獅子は我が子を過酷な状況で鍛えるっていつも言ってたけど、こんなところで死にかけるなんて思っちゃいなかったろうね)
「はぁ……」
ため息は相棒と同時だった。自分と同じような彼の苦笑いを見たところ、どうやら似たようなことを考えていたのは間違いない。
もっとも、彼の家はウィリアムと比べ物にならないほど裕福だが。
と。
苦笑いの間を、猛烈な火炎が駆け抜けた。
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