115:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)[sage]
2011/08/04(木) 02:15:30.37 ID:tOrZDzqRo
時間こそ遅いけど、これは一見したら日常の風景だろう。
だけど私の心のなかはそれとは程遠い状態だった。
冷静を装っているけど本当はぐちゃぐちゃだ。
彼と話したい、彼と仲良くなりたい、彼と親密な関係になりたい。
彼が誰かと話すのが許せない、彼と誰かが仲良くなるのが許せない、彼と誰かが恋人になったりしたら許さない。
彼を独占したい。彼に独占されたい。
そんな願望が頭の中でぐるぐるぐるぐる回っている。
そして僅かではあるけどそんな私を客観視して冷めた目で見ている私もいる。
あの瞬間からずっとこんな調子だ。
嫉妬や独占欲、愛情や切なさ。そして諦念。
様々な感情が混ざり合ってできた渦は彼からあの子の名前を聞いた時から大きくなるばかりでまるで収まる気配はなく、どんどん私を侵食していた。
その結果意識は霧に覆われたようにぼんやりとしていて、彼のことだけしか考えられなくなっていた。
まさに心ここに在らずという状態だ。
私の心は彼のところからずっと動けないでいるのだろう。
「つっ」
突然振って湧いた痛みによって意識が目の前のまな板に戻された。
今更気づいたのだけど、私はほぼ無意識でネギを切っていたらしい。
それではこんなことにもなるだろう。
まな板では包丁とネギが赤く染まっていて、なかなかグロテスクな光景だ。
痛みの発生源に目をやると案の定と言うべきか右手の人指し指がぱっくりと割れており、そこからは鮮血がゆっくりと、溢れ出すように流れ出ていた。
早く止血しなければと思い、足を台所の外へ向けようとする。
だけどそれは実行されなかった。
足がまるで地面にへばりついているように動かなかったのだ。
ようやく自分の異変に気づく。
目が流れている血から離れてくれないのだ。
まるで金縛りにあったかのように視線は固定され、それに合わせるように身体は静止してしまっている。
そしてそれを見れば見るほど私の意識はどんどんとどこかに沈んでいった。
――脳裏に薄暗い部屋の景色が浮かんでくる。
周りを見渡すと拘束用に使うと思われる縄や手錠などが散乱していて、気味が悪い。
視線を正面に戻すと、私の目の前には誰かが跪いているのに気がつく。
その人物の顔をよく見ると口元から赤い液体を垂らしていて、顔全体はだらしなく緩みきっている――
ゾクッと寒気がして指先の痛みと共に意識が戻る。
足を試しに動かしてみると、何の問題も無く地面から離れてくれた。
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