過去ログ - 暁美ほむら「最後に残った道しるべ」
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32:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[saga]
2011/04/08(金) 23:08:27.04 ID:4+5uQgBh0
>>29の続き。
11
制服に着替えたまどかは、手に何も持たず家の廊下を歩いた。
あるのは家族と、この家と、そして自分自身との訣別の心持ちだけだ。
さようなら。パパ。
さようなら。タツヤ。
通り過ぎる家族に視線を送り、心の中で別れ告げる。
そして、制服姿で玄関にむかう。
玄関についたら、ちょうどそのタイミングで母親が家にもどってきていた。
鼻歌交じりにスーツ姿でヒール靴を脱いでいる。
めずらしく帰りに飲みにも寄らず、いつもより早く帰宅したらしい。
「あ…」まどかの足が止まる。
娘と目を合わすや、フッと母親が微笑みかけた。
「よ、まどか。ただいま〜調子はどうなのさ?ん…?」
まどかの様子の異変に気づく。「あれ、これからお出かけ?」
一瞬黙りこくって。
まどかは、小さく顎を引いてうなづいた。「うん…」
「んー、そうか」
母親はヒール靴を乱暴に脱ぎ捨て家にあがる。
「どこいくのかしらないけどさ〜、病み上がりなんだし無茶すんなよ〜」
まどかの肩の横を母親が通り過ぎる。「あ、知久、ポテトサラダ、今日ある〜?」
「はいはい。」父親の快い返事が後ろで聞こえる。「ママ、でも先に手を洗わなきゃ」
「あはは…」まどかは笑った。家では、いつものような家族の日常が。
今は最高の幸せのように感じられた。
そして最後のこの瞬間に、まどかはそれをめいっぱいかみ締めて。
制服のローハーを履き、かかとまで踏み入れ、玄関のドアに手をかけると。
「まどか」
外にでる手前、母親が急に振り向いて自分の名前を呼んだ。
「え…」きょとんとしたような、まどかの瞳が母親を見返す。
母親からはさっきのくだけた雰囲気は消えていた。
じっとまどかを見つめている。
一瞬まどかは、母親に何もかも見透かされてしまったような、そんな気持ちがした。
「ま、門限とかうるさいこといわないけどさ、」
その母親が娘に、またフッと笑ってみせると言った。
「用事すること済んだら、そしたら家に帰ってきなよ。」
その言葉にまどかは。
嗚咽が喉をこみ上げて、思わず口元を手で押さえて。
溢れ出しそうになる涙をこらえてすぐにドアの外側に出た。
そのあいだにも涙の雫が数滴こぼれ落ちてしまったかもしれない。
閉めた玄関ドアの向こう側で、まどかはしばらくその涙と戦いながら。
「ごめん…ごめんね…」
誰にも届かない声を絞り出していた。
「私…やっぱりウソつきだ……。ごめんね。もう、家には帰れそうには……ないから……」
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