6:アスカ「私なりの愛ってやつよ」
2011/04/13(水) 23:28:24.43 ID:nYXsbXrS0
僕の記憶するところでは、あの事件が起こったのは12月30日のことだった。
朦朧とする意識の仲、目をこすって時計を見ると六時をさしていた。
朝の六時なのか夜の六時なのか判然としない。
布団の中で思案してみたけれど、いつの間に眠ったのか覚えていない。
誰かがインターホンを押したのでドアを開けたところで、記憶が飛んでいる。
僕は布団の中で毒虫のようにもぞもぞしてから、のっそりと起き上がった。
何だかひどく気分が悪い。まるで水の中を泳いでいるようにふわふわする。
しかし、愛すべき自室を見まわしてみても、特に変わった様子はない。
静かだ。
僕は自前の小型冷蔵庫からミネラルウォーターを出し、コーヒーメーカーで珈琲を沸かして、
カステラを食べることにした。殺伐とした食事を済ますと、ふいにおしっこがしたくなった。
廊下へ出て、玄関脇にあるトイレへ向かおうとした。
ドアを開けた僕は、僕の部屋へ踏み込んでいた。
怪奇だ。
僕は振り返った。
混沌とした我が自室がそこにある。
ところが目の前で半開きになったドアの向こうにも混沌とした我が自室がある。
[たぬき]で言う、「鏡面世界」を見ているようだ。
僕はドアの隙間を抜けて、隣の部屋へ踏み込んだ。そこは間違いなく僕の部屋だった。
ベッドにごろんと横になった時のきしむ感触。雑多な書籍が並んでいる本棚。
壊れかけのウォークマン。ネジの取れかけた学習机。埃の積もった教科書の山。
生活感あふれる光景だ。
ドアをくぐって元いた部屋に戻ったけれど、そこも僕の部屋には違いない。
長きに渡る使途との戦いの末、ちょっとのことでは動揺しなくなった僕も、こればかりは動揺した。
何という怪奇現象。僕の部屋が二つになった!
ドアから出られないんじゃあ、窓を開けるしかない。
僕はこのところずっと閉めきってあったカーテンを開いたけれど、曇りガラスの向こう側には
蛍光灯の明かりが輝いている。
がらりと窓を開けた僕は、部屋を覗きこんだ。
窓枠を踏み越えて中に入り、詳しく調べてみたものの、そこは僕の部屋だった。
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