過去ログ - キャスター「宗一郎様。 ここは…学園都市ですわ」
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33: ◆CERO.HgHsM[sage saga]
2011/04/27(水) 18:16:51.73 ID:yrqsx3mfo


パタパタとスリッパを鳴らしながらパステルカラーのエプロンをかけた新妻が小走りでかける。
向かう先はこれより出勤する夫のもと。

「宗一郎様? どうぞこれを。 今日のお弁当ですわ」

「あぁ。 すまない」

暖色のナプキンに包まれた弁当箱を差し出され、簡潔に礼を言いながらそれを鞄の中に詰める夫。
そんな夫の様子を新妻がチラリと上目遣いで伺う。

「あ、あの……宗一郎様?」

「なんだキャスター?」

夫の静かな声に促され、新妻は不思議そうにこう問いかける。

「本当に良いのですか? 宗一郎様がお望みならば何も働きに出られることもないのです。 私とて魔術師の端くれ、金銭の心配などする必要は……」

働きに出ずとも良いのだと夫に告げる新妻。
それは事実だ。
夫の前だからこそ自らを魔術師の端くれなどと謙遜したが、こと魔術に関することならば新妻に敵うものなど現世にいる訳がない。

この新妻は錬金術すら片手間でやり遂げてしまうのだ。

鉛を純金に変えるという錬金術の象徴ともされる『大いなる業』はこの地でも存在している。
だがそれは七兆円近い費用と三年以上の期間が必要になるのだ。

そんな『大げさな魔術』を――この新妻は指を振るだけでやり遂げてしまう。
それがどれほどふざけた話かなどもはや説明する必要もないだろう。

けれど、新妻の提案を聞いた夫は僅かに首を振った。

「そういう訳にもいかないだろう。 生活の為に労働をし、糧を得る。 それが社会の理だ」

そう言って提案をあっさりと却下する夫。

「……え? あ……も、申し訳ありません 出過ぎた真似を……」

慌てて前言を撤回する新妻が畏まるが、夫は妻の少々過剰な反応を気にすることもなく静かに出発する旨を告げた。

「いや、気にすることはない。 そろそろ時間だ。 行ってくる」

「は、はい! 行ってらっしゃいませ!」

ペコリと頭を下げ働きに出る夫の背を名残り惜しそうに若妻が見つめ続ける。
そしてその背中が完全に雑踏に消えるまで見送ってからようやく。

ふにゃりと新妻の頬が緩んだ。

隠そうにも隠しきれない微笑の原因は先程の夫の言葉。
聞き方を変えればそれは妻を養うために働きに出るのだ、とも聞こえるわけで。
新妻の脳内では既にそのように変換されている。

「ふふ……うふふ! そうよこれよ! これなのよ! 誰にも邪魔をされない二人の生活こそ私の望んでいたものなのよ!」

ニマニマと夫の言葉を数十回と反芻してから屋内へと戻り、そこで僅かに溜息をついた。

新妻の目に飛び込んできたのはガランとした室内。
これから二人の愛の巣となる部屋にしては物寂しいにも程がある。
それも当然、昨日飛び込んできたばかりなのだ。
部屋の中には僅かな寝具程度しか見当たらない。

可愛いものが大好きな少女趣味の新妻にとってこれは少々我慢がならなかった。

パステルカラーのエプロンをしたまま腕まくりをして、新妻がフンと鼻息を荒くする。
これからやることはたくさんあるのだ。
部屋の整理、日常品の買出し、神殿の構築、魔術による結界――そしてもう一つ。


「今日は時間がなくて出来合いのものを詰めちゃっただけだしね。
 宗一郎様に恥をかかせるわけにいかないし。 明日から自分の手で作ったお弁当をお渡ししなきゃ」


そう呟いて新妻の目がキランと光る
目標が決まったのだ。

神代の魔女、稀代の英雄である新妻・キャスターがこれより全力をもってとりかかるもの。

――それは美味しい愛妻弁当の作成という難行である。


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