782:すけこ☆マギカ[sage saga]
2011/07/17(日) 22:43:25.19 ID:utcPm39Ao
(「……嫌あああっ!」)
さやかの悲鳴。
巨大な蝿達が結界を覆っていた。透明な壁にとりつき、うろうろと、何かを探るように這い回った。
最悪のタイミングで目覚めたさやかが、しきりに首を横に振っているのが見える。
やがて動きを止めた蝿が、尻を壁に付け、
「ミバエってね、まだ柔らかい果実や芽の中なんかに生み付けるんだよ」
卵を。
(「助けて、恭介ぇっ──」)
壁を通過して降る、大量の白く透き通った塊を浴びせられ、さやかが絶叫した。
結界の中が放出された卵で満ちる。すぐさま孵化して蠢きだす。壁の向こうの彼女は幼虫のプールに沈んでいく。佐倉杏子の名を呼ぶ事はなく。
横たわる悪魔の腹へと、杏子は意思の刃を向けた。きっと意味がないだろうと思いながら裂いた。
見せつけるように恭子は血を吐き、白目を剥き、その眼球を腐らせて、全身を急速に腐らせて、骨片と濁汁になって地面に沈んでいった。
「(悪趣味め!)」
槍を長く長く伸ばし、孵化と羽化を繰り返す渦中に飛び込んだ。
紡いだ結界を自ら打ち壊し、虫溜まりから少女を一本釣りで拾い上げた。
パニックを起こしているさやかは、嫌ぁ、嫌ぁ、と力無くもがいて逃げようとする。武器を放って、抱きしめる。
膝が笑うとは、この事か。杏子は思う。歯の根が合わない。
虫がうるさい。空で泣く魔女がうるさい。今さっき瞼の裏に焼き付いた、腐る恭子の姿がうるさい。
一番やかましいのは想い出だ。仲間と出会って、過ごした日々。まだ戦わなくてはいけないのに、このまま膝をつきそうになる。
負けた。侵された。
せっかく見ないフリでやってこれたのに、オマエはひどいヤツだよ。
地面から生えた藤の木の蔓を視認しながら、杏子は動けなかった。
動けば、壊れてしまいそうだった。
目を瞑っていれば、絶望は遠ざかる気がした。
佐倉杏子に限り、それは正しかった。家族の死から封じた、捨てたと本人が思っていた魔法は、彼女の中で生き続けていた。
ゼロ距離から向けられる強力な幻惑が、魂の濁りをも惑わす。憎んでやまなかった自身の魔法によって、杏子は生き延びてきたのだ。
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