204: ◆Q6CGh0.8HA[saga]
2011/06/02(木) 23:35:32.96 ID:zxsjKEUSO
臙脂色のカーペットに腰掛け。木製の手掛けは一面のむらなくニスが塗られ、全体が等しい光沢を放っている。
サイドにはカップの珈琲を収納出来るちょっとしたスポットもある。
壁は防音の為にかやや湾曲した形の作りで、全面を覆う素材は柔らかくて目が粗い。スポンジのようだ。
天井には豪華絢爛な装飾の電灯が数多釣り下げられていたが、今はその一つも光輝を放っておらず、空間を薄暗く照らしだすのはステージに降る力強いライトだけであった。
臙脂色の座席に身体を預ける満員御礼の昼間の権力者達は、皆一様に真剣な眼差しを踊り子とバックダンサーに注いでいる。
既に公演は始まっていたようだ。
頭の中に入り口で払ってしまった金がちらついたが、此処で引き返して文句を言うのは何やら気恥ずかしい。
何食わぬ顔をして、そっと着席をしたのだった。
さて、こうして近くにまで寄るとどうしても誤魔化し切れぬ品がある。
先ほどは、さも豪壮麗美な空間であるかのように把握してしまった(これは当然ながら代金とその対価への執念からである)が、実際はどうしようもなく下品なのだ。
濃い紅の布地は、所々に掃除しそこねた白濁の跡が黄色い変色体となってこびり付き、触る度にチクチクと刺してくる。ズボンという布を尻の間に一つ敷いているのにだ。
そして、上等な手掛けは何故かべとべとと油っぽい。無いほうがマシである。
壁や電飾は黒ずんだ黄色の煙かすに犯され、時代に置いていかれた老人のように古くさく物寂しい。
さてさて、先程はかろうじて見えていた紳士諸君であるが、今や私は達観して曇りガラスは取っている。
そうして肉眼を絞るとどうであろうか。
何ということはない。盛りのついたブタである。
目を異様にギラギラさせ、白目に毛細血管が浮かび上がらせ、吐息を押し殺し、食い入るようにステージを視姦しているのだ。
真剣ではなく、狂気の沙汰だろう。
さらに、目に染みる臭気の、しかも可哀想に小さい一物をスーツからぼろんとはみ出させ、自らの宿命のごとく上へ下へと動かしているのである。
それに時たま、短い吃りとともに金と権力に膨らみ上がった身体をガクガクと震わせ、申し訳程度の小汚い精子を散開させるのだ。
つまり、この空間は彼らの重苦しい熱気と、鼻を執拗に殴り付ける汚臭の溜り場。地獄の三丁目であった。
此処まで見たからには「あぁ、金よ。綺麗な我が身よ」と、私は目眩を拗らせて倒れる寸前だ。
しかし、どうしてか。やはり、恥ずかしくて席を立つには及ばない。
己の卑屈さを呪いながら、なんとか楽しもうと、踊り子がバックダンサーに蹂躙される、小さな主役の女子が醜い脇役に全てを支配されている風景に目をやった。
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