過去ログ - 会社を辞めたい
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12:こんな感じで良いなら書く
2011/06/03(金) 22:35:53.64 ID:qrhpuxVAO

「会社を辞めたい」

僕が言うと彼は「またか」とでも言いたげな表情を浮かべ、向かい合って座る間にある木製の小さな円卓の上に置いたアルミ製のケースから五本目の煙草を取り出し、口に運んで着火した。
紫煙がゆらゆらと五畳半しかない僕の部屋中へ拡がるのを見て、僕も胸ポケットからケースなんかに容れていない彼と同じ銘柄の煙草を取り出し、火を着ける。
二、三回だけ何も喋らずお互い煙を吐き出し、灰皿へ灰を落とす。

「一応、理由を訊きたいな」

左手の人差し指と中指に煙草を挟んだまま彼はようやく言葉を発する。
その煙草を挟む指の隣に嵌められたシルバーのリングが蛍光灯の灯りを反射し、鈍く光った。

「性に合わない」

勤続三年目を迎えた職場の情景を思い浮かべながら煙と一緒に吐き出すと、彼は「またか」と今度は口に出して言った。

「小学のスイミングスクールも、中学のサッカー部も、高校のラグビー部も、大学のサークルも、バイトも、新卒で入社した企業も、そう言って辞めたよな」

「そうだっけ?」

当時の事を思い返すと真っ当な理由が在って辞めたような気がするが、思い出せない。
まあ、思い出せない理由ならきっと今と同じような理由なんだろうけど。

「続けるって事が苦手だよな、お前は。いや、苦手じゃなく寧ろやろうとしない」

「…………」

「人付き合いだってそうだ。今、プライベートで会う奴は何人居る?」

僕はその言葉を訊き口に煙草をくわえたままスーツのズボンのポケットから携帯電話を出して電話帳を開く。

「携帯は、長く持つ癖に」

「使い勝手が良いんだよ……っと一人、かな」

答えなど予め解っていたが、ニヒルを気取った笑みを浮かべ演出過剰に言う。
勿論、一人とは目の前に座る彼の事だ。

「ぼっち」

「うるせえよ」

別に僕はコミュニケーションが苦手な訳ではないし、彼の言うようにやらない訳でもない。
単純に、億劫なだけだ。


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