66: ◆5yGS6snSLSFg[sage saga]
2011/06/05(日) 18:17:04.29 ID:rzU0xYe0o
「麻奈実が自分がやりすぎじゃないかほかの人と比べたがってたんだ」
「えっ?」
「聞こえなかったか? 麻奈実が――」
「い、いえ。聞こえたわ。……本当に田村先輩が?」
「ああ。自分で聞くのは恥ずかしすぎると俺に相談してきたんだ」
安価だから仕方ないとはいえ、我ながらひどい言い訳だ。
すまん、麻奈実。今度何か奢ってやるから許してくれ。
「で、俺がこんなこと聞けるのは黒猫、おまえだけなんだよ」
「じ、事情はわかったわ」
どうやらこの言い訳は正解だったようだ。
黒猫の反応と表情を鑑みるに、どの言葉かは分からないが、俺の言葉が黒猫の琴線に触れたらしい。
さっきと比べて黒猫の表情が柔和になった気がする。もちろん、そこまで大幅に改善されたわけじゃないが。
「おお! わかってくれたか!」
「ええ」
「……で、実の所何回なんだ? 麻奈実のためにも包み隠さず教えてくれると助かる」
「基本的にゼロよ」
「ええ、マジで!?」
「何を驚いているの。私がそんな不浄なことをするわけないでしょう。」
「まじかぁ…………ん? 基本的?」
「あ……じゃ、じゃあ私は忙しいからこれで」
「待て待て、露骨に慌てて帰ろうとするんじゃない。基本的にってどういうことだ?」
「うっ……」
じり……と黒猫が半歩後ずさる。『やってしまった』と黒猫の表情が雄弁に語っていた。
「基本的にってことはどういうことなんだ? ん? さあさあ、言ってみ?」
ここぞとばかりに黒猫を追い詰めていく。
これだよ! 俺がやりたかったのはこういうことなんだよ!
普段こいつらには振り回されてばっかりなもんだから、たまにはこんな復讐じみたことがしてみたかったんだよ!
まあ、その内容が下ネタってのはちょっといただけないが今はこのえも言われぬ優越感に身を委ねることとしよう。
じりじりと後ずさる黒猫を壁際に追い詰める。
退路を断たれたことで黒猫もようやく覚悟を決めたのか、ようやく重い口を開いた。
「………………わ、私も経験がないわけではないという意味よ」
「……」
ここで茶化すようなことはせず、黙って黒猫の次の言葉を待つ。
「しょ、小説や漫画を描くにあたってそういうシーンを入れたくなって……で、何事もやってみないとわからないから……その、あくまでも資料の一つとして……」
可愛そうに。黒猫は半分涙目になっている。
ちょっとちくりときたが、今までの俺の心労や肉体的疲労を鑑みればこれぐらいは許されていいと思う。
そして、黒猫の台詞は、最後の方こそ日本語として怪しくなっていたが、「なるほど、そういうことか」と理解に足るものだった。
要は桐乃が携帯小説を書く際に行った取材と同じようなものだったのだ。
黒猫のことだ。自分の知らないものを知らないまま作品に登場させるのは我慢ならなかったのだろう。
さて、安価を達成した今、黒猫が我に帰る前にこの場を離れないとな。
どんな罵倒をされるかわかったもんじゃないし。
「そうか、よくわかったよ。ありがとな!」
「え、ええ?」
混乱する黒猫を置き去りにし、奇妙な達成感と少しの罪悪感を持って俺は帰路についた。
夏休み、二日目。昼パート 安価成功
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