過去ログ - 美琴「極光の海に消えたあいつを追って」2
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29:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)[saga]
2011/07/02(土) 00:51:55.20 ID:4jjVYGHho

庭園に一人残された美琴は、ただうなだれて雪に覆われた地面を眺めていた。
力なく地面にぺたりと降ろされた掌に、ぽたりぽたりと涙の粒が落ちて行く。

一方通行を。
妹たちを虐殺した、憎い憎い男を。
耐え難い苦痛と死を巻き散らす、災厄の塊のような男を。

殺せなかった。
仇を取ってあげられなかった。
あまつさえ、手を汚さぬに済んだことでほっとしてしまった。

殺せなかったことも、殺されなかったことも。
それを心のどこかで喜んでしまった自分が情けなくて、あさましくて。

今まで築き上げてきた矜持と自尊心が音を立てて崩壊していく。
結局自分は無力で、口先だけで何もできない、醜く、意地汚く、卑小で弱い人間。
それをまざまざと自覚させられ、壮絶な自己嫌悪に苛まれた。

そこからの逃避を、痛みに求めた。
きりきりと痛む胸から声にならない悲鳴を絞り出し、ぎりと握りしめた右の拳を思い切り地面へ叩きつけた。
雪が積もっているとはいえ、その下はレンガ作りだ。

一度。
二度。
三度。

何度も。
何度も。
何度も。

拳の皮が剥け、
血が流れ出し、
やがて肉が抉れる。

病棟内が停電したのだろう、変電施設の様子を見に来たスタッフたちが庭園の入り口から飛び出してくる。
彼らに無理やり止められるまで、形容しがたい嗚咽を漏らしながら美琴はいつまでも地面を殴り続けていた。



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