過去ログ - 番外・とある星座の偽善使い(フォックスワード)
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30:作者 ◆K.en6VW1nc[saga]
2011/07/10(日) 12:23:26.38 ID:U58nKrMAO
〜1〜

少年は走る。少年は駆ける。少年は……逃げる。

少年B「はあっ!はあっ!はあっ!」

人混みの中他人の肩にぶつかり、人込みの中他者の足を踏みつけて少年は疾走する。
背中から罵声を浴びせられようと、正面から怪訝な眼差しを向けられようと構う事無く道を行く。
スタートラインはあの駐輪場からだったはずだ。しかしゴールテープが見つからない。

少年B「ひぃっ、ひぃっ、ひぃっ!」

肩で息をするどころか、鼻腔を広げ口を開き、舌を垂らし唾液を溢れさせるような……
お世辞にも美しいとは言えない、青息吐息を地で行くそれはまさに逃亡者を地で行く醜態だった。
されど彼にはもうかなぐり捨てる何者も残されてなどいなかった。拠り所にしていた『能力』さえもが

「あかんやろー友達ほっぽりだしたらー」

……この雑踏の中のいずこからか聞こえてくる、怪しげなイントネーションに野太く滋味深いテノールボイスの主には通用しない。
途中ではぐれた少年Cからコールの一つも鳴りはしない。
それは有形の声音と無形の圧迫感を以て自分の後をついてくる『誰か』にやられたという事だ。

「友達っちゅうのはやー、彼女とかそんなもんよりずっとずっと大事なもんや思うねんよ?僕ぁ彼女おらん歴=年齢やけどね!」

少年B「五月蝿い!五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い!!」

通行人「……??」

そして奇妙な事に――少年Bが恐慌状態で張り上げる叫び声に対応する野太い似非関西弁の少年の声は……
周囲には一切『認識』されていないのだ。まるで少年Bの奇異な独演会のようにしか周囲には認知されていない。
雑踏の中を疾走しながら絶叫するその様は、逃亡者というより関わり合いを避けたい狂人のようですらある。だが

少年B「たっ、助っ……!」

「あかんあかんそっち行ったら。逃げ出した先に楽園なんてないて、大きく分厚く重くそして大雑把過ぎる剣士さんも言うてたやろ?」

少年は葦の海を割ったように周囲の人々が気味悪がって開けた空白の道を抜け出すようにひた走る。
それは溺れる犬が対岸を目指すように直向きで、切実で、絶望的な熱狂に取り憑かれた――

「せやからなー……あっ、」

それが、少年Bの聞いた……現世に於ける、最後のはなむけの言葉となった――




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