過去ログ - 番外・とある星座の偽善使い(フォックスワード)
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作者
◆K.en6VW1nc
[saga]
2011/09/05(月) 21:12:40.76 ID:r59ePYOAO
〜麦野沈利〜
麦野「………………」
手術後しばらくして……麦野沈利は冥土帰しの病院のベッドで目を覚ました。
その茶色というより栗色に近い巻き毛まで寝汗で濡らし、汗ばんだ額に張り付く前髪をより分けて。
麦野「……上手くやってくれたみたいだね。カエル顔の医者(せんせい)」
髪をいじる左手を念の為に指先まで開き、閉じるように握り込む。
同じく右手も動作確認し、足の爪先も確かめる。
四肢の動きも戻っている。手術後の熱や痛みは冥土帰しが調合した特別製の麻酔薬によって打ち消されているが――
麦野「……ひでえツラになったもんだね。女の私が男前が上がったって仕方ないのに」
胸元から腹部にかけて包帯が巻かれているのをパジャマの上から確認出来た。
それから頬にも絆創膏や湿布、額にも包帯が施されているのが手触りでわかる。
鏡を見る気にもなれなかった。同時に人に見せる気もなかった。だがしかし
麦野「……まあ、しゃーないか。あんまり贅沢も言ってらんないし?」
???「そうだぜ。んな事言ったら俺なんて豚まんみたいになっちまってんだからさ」
麦野「……本当、お互いひどい顔してるわねー」
???「ああ、暗くて本当に良かった」
いつしか止んでいた雨が、月に照らされて虹を描いているのが開け放たれた窓辺から伺えた。
暗雲の名残を引く星月夜をバックに、夜風に翻るカーテンがそのシルエットに一瞬重なっては離れ行く。
夜空にかかる三日月のような白虹。そこに佇む少年の声。
麦野「……どうして?」
???「……お前、今自分がどんな顔してるかわかってねえだろ?」
麦野「………………」
???「ほら――」
その朧気なシルエットが麦野へと歩み寄って来る。
麦野の滲んでぼやけた視界にもはっきりと、くっきりと、ゆっくりと歩を進めて。
術後の痛みや傷口の熱など麻酔で打ち消されているのに、ひどく胸が痛む。
雨は上がり雲も薄まっているのに、シーツの上にポタポタと水滴が落ちる。
???「こんな近くまで来ねえとわかんねーだろ?」
風が吹く
麦野「……まだ」
雲が散る
???「……これくらいか?」
月が輝き
麦野「……まだ遠い」
影が重なり
???「――こうか?」
時が止まり
麦野「――――ッッ」
言葉が
???「――ただいま」
奪われる――
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