過去ログ - 番外・とある星座の偽善使い(フォックスワード)
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814:作者 ◆K.en6VW1nc[saga]
2011/09/10(土) 21:24:46.68 ID:42BNj/aAO
〜17〜

麦野「ねえ当麻」

上条「……なんだ?」

麦野「――今から言う独り言を、ただ黙って聞いて」

麦野の声が震え出す。恐らくはこの広い世界の中で、上条ただ一人しか知らない顔。
それはドライでクールな仮面を脱ぎ捨てた、ガラスの素顔からこぼれる涙。

麦野「私は綺麗な子にも優しい娘にもなれない。イチャつくのも苦手だし、ヤキモチだって焼く。プライドだって高いし、エゴだって強い」

自分の善行すら受け入れられず、自分の悪行から目を切れない。
何をするにも無駄なこだわりの元、完璧でなければ自分にも他人にも折り合いがつけられない。

麦野「人は見下すし、あんたの気持ちより自分の都合を優先するし、構われ過ぎてもムカつくしほっとかれるのはもっとイヤ」

膨れ上がった自己矛盾と、広がる自家中毒、腐食にも似た絶望。
壊死して行く精神と、悪性新生物のように無限増殖する負の感情。
酒を酔おうがセックスに溺れようが死を夢想しようが忘れられないもの。
麦野は自分の記憶に殺されそうにすらなっていた。

麦野「あんたを生きる理由にして、他人を死ねない言い訳にして、追い込まれないと自分と向き合う事も出来ない」

麦野が仮に百人救う生き方を選んでも残された人間はそれを許さない。
麦野が千人救う罪滅ぼしを選んでも殺された死者がそれを赦さない。
殺された側から、残された側からすれば、それをやった人間がどう生きようとまるで関係ないのだ。

麦野「――こんなに汚くて」

助けての一言が、許しての一言が、例え首を締め上げられても麦野には言えない。一度でも口にしてしまえば……
麦野はもう地獄にすら行けない気がしていた。
一度でも荷を下ろしてしまえばもうこの煉獄は背負えないと。

麦野「――こんなに醜くて」

麦野は世界に価値など見いだしていなかった。それを守ろうとしている上条に価値を見いだしていたつもりだった。

しかしそれは逆だった。世界が眩しいと認めてしまえば、そこに自分が存在する価値を見いだせなかったのだ。
そんな醜い自分を飲み込む事で、麦野は今日初めて立ち上がったのだ。

麦野「――こんなにわがままな私だけど」

ガラスの靴もない裸の素足で、初めて刻んだ椅子の子供の小さな一歩。
変えられない過去を受け止め、その上で変えられる未来を受け入れて。

麦野「――私はあんたについて行きたい」

それは、麦野沈利の少女時代の終わり――



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