過去ログ - 番外・とある星座の偽善使い(フォックスワード)
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819:作者 ◆K.en6VW1nc[saga]
2011/09/10(土) 21:30:15.98 ID:42BNj/aAO
〜20〜

それが麦野の限界だった。余りに多くを抱えた千丈の堤が、一つの蟻穴をもって溢れ出した。
子供のように弱々しく、罪人のように痛々しくしゃくり上げるその姿は……
紛れもなく偽らざる麦野の心底だった。言葉に出来ず声にならぬ、魂の苦悩を絞り出すような涙だった。

上条「だから、もっと自分の事を大事にしてくれ。俺達はみんなお前が大切なんだ。お前がいなくなった生活なんて考えられねえし、お前が消えた世界なんて想像出来ねえよ」

罪も許されない、罰も赦せない、業は終わらない。
闇の中で幾多の生を、闇の底で数多の死に触れて来た少女に上条が出した答え……
それは居場所だ。前にも進めず後ろにも退けない少女に対して、ひだまり溢れる木陰のベンチのような存在になると。

上条「写真だって思い出だって記憶だって……確かに俺とお前は2つ離れてっけど、それだって同じように歳取んのは変わらない」

自分の中の絶望から目を背けず、期せずとも御坂美鈴を守った麦野。
法が、神が、死者が、麦野自身が自分を許さないのであれば――
時間を、居場所を、生きる事を与えられるのもまた生者しかいない。
性善にも依らず、独善にも拠らず、偽善に因る手を上条は差し伸べる。
そこが例え世界の果てでも、麦野の世界は終わらないと。

上条「生きてる限り何度だって失敗していいんだ。失敗は“もうダメ”なんじゃねえ。“まだやれる”って事なんだ。お前は立とうとしたんだ。つまりそれって歩こうとしたって事だろ?」

麦野が『地獄』で見たもの。腐り落ちる果物を滅びゆく生、朽ち果てた髑髏を逃れぬ死、ひび割れた砂時計は限りある時を意味するヴァニタスそのものだ。
だが上条の右手はその砂時計をひっくり返す。零れ落ちる星の砂を拾い集めて。

上条「一緒に征こう、沈利」

麦野「……うっ」

上条「――俺と一緒に、生きてくれ」

麦野「――……ッッ!!」

朝風が涙を攫って行き、棚引く暁雲が明星を連れて来る。
戦ぎ、靡いて、翻るカーテンが二人の姿を覆い隠して行く。

止まない雨はなく

明けない夜はなく

晴れない闇はない

夜明けの空を、鳥達が羽撃いて行く。

いくつもの舞い散る羽根が、吹き上がる風に導かれ空に溶けて行く。

ガラスケース越しではない、手のひらの中の世界が始まって行く――


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