過去ログ - 番外・とある星座の偽善使い(フォックスワード)
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855:作者 ◆K.en6VW1nc[saga]
2011/09/17(土) 21:26:15.77 ID:W55C2CfAO
〜18〜

冥土帰し「……彼女は意識を取り戻したよ。五分以内ならば話も――」

麦野「いい」

冥土帰し「………………」

麦野「私はあいつらを自分の都合で切り捨てて、アイツと天秤にかけた上で放り出したんだ」

麦野は受け取った紙コップのコーヒーよりも苦い感傷を飲み干しながらサイドポニーをいじる。

麦野「“体晶”なんてもんを使わずには生きられないような闇の中にアイツらを置き去りにして、私は自分一人自由の身になったんだよ。先生」

冥土帰し「………………」

麦野「滝壺に“体晶”を使わせ続けて来たのも他ならぬ私自身。だけどね先生。私は命令を出した自分に責任は感じてるけど後悔はしてないし、滝壺に負い目も引け目も感じちゃいない」

努めて淡々と語るその横顔を月灯りのような自販機の光が照らして行く。

麦野「――私は効率良く敵を殺し追い詰めるのと同じくらいアイツらを死に目に追いやって来たんだよ。死にたくないから。殺されたくなかったから。だから私はアイツらを使い潰しの道具として扱って来たし、アイツらも生き延びたいから、生き長らえたいから従って来たのよ。それを今になって」

冥土帰し「……だから顔を合わせられない、と?」

麦野「そうよ」

眼鏡のズレを直す。病院での暮らしが肌に馴染むとどうにも家にいる時のような地が外見に表れて来るのだ。
人は死や、痛みや、恐れに対してなるべく身軽でいようとする。
だが同時に、常日頃押し殺している本音を吐露しやすいのもまた病院という環境だった。そこで

冥土帰し「――そんな事は、ないんじゃないかな?」

麦野「……?」

冥土帰し「君の言う通り、君は色々な物を切り捨て様々な者を投げ捨てて来たのだろう?それは誰にも変える事の出来ないものなのかも知れない。けれどね?」

生を拒絶する殺人者(メルトダウナー)の対局に位置する、この死を否定するカエル顔の医者(ヘブンキャンセラー)は

冥土帰し「――君が捨ててきたモノたちは、果たして本当に君を見捨てたのかい?」

麦野「………………」

冥土帰し「いいかい?」

麦野が撒き散らして来た『死』以上の『生』を万人の下へ返して来た医者……
星座の蛇遣い座(アスクレピオス)のような神の手を持つこの老人は――




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