120:LX[saga sage]
2011/08/13(土) 21:59:59.70 ID:Edo06nMD0
10032号は直ぐに使い捨てのオペ衣を脱ぎ捨て、焼却袋に放り込み、パウチした。
手を洗うのももどかしく消毒薬に手を突っ込み殺菌した後、ロッカーから出した私服に着替え、部屋を飛び出した。
オペ室に向かって急いで来ているはずの13577号と会わぬよう、別の階段を駆け下り、ロビーへと急ぐ。
ロビーの手前で、彼女は足を止めた。
懐かしい感覚が彼女を包んだからだ。
(これは……あの子の……感覚)
まだ赤子の時から、産まれて初めてあの子を抱き取った時に感じた初めての感覚。
身体の奥深くを走り抜ける不思議な感覚。
それが、7年の時を経て、彼女の身体を走った。
(一麻が、いる)
その子は直ぐに見つかった。
(わたしの、息子……)
わたしの乳首に吸い付き、全てを吸い込むか、というような勢いでひたすら乳を飲んでいた、ちっぽけなあの子。
目が見えているのかいないのか、でもおなかが一杯になると、わたしの顔を不思議そうにじっと見ていたあの子。
うれしそうに笑いながら、ちっちゃな手で、わたしの顔をピタピタさわっていた、あの子。
歩けるようになって、わたしの手にぶらさがるように、トコトコと歩いていた、あの子。
わたしの後を必死に泣きながら追いかけて、
『おかあちゃん?』
不安そうな顔で、わたしにしがみついて、
世界中でただ一人、わたしを「おかあちゃん」と呼んだ、あの子。
そう、世界中にたった一人だけ。
わたしの味方。
1002Res/1293.21 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。