352:LX[saga sage]
2011/10/23(日) 20:33:41.49 ID:14UMczit0
そして、年も押し詰まった数日後。
とうとうその日が、来た。
「行ってらっしゃい」
「うん、行ってくるよ。夏休みには帰ってくるからね。じゃ元気でね」
「身体には気を付けるのよ!」
「はーい」
「しっかり勉強してきなさい。元気でな」
今日は、旅掛も孫の旅立ちを祝福すべく家にいた。
(せめて正月くらいは一緒に過ごしたかった……。あと少しなのだが、致し方ないか。今度の正月は寂しくなるな)
旅掛は傍らに立つ美鈴の顔をそっと窺う。
美鈴は明るく笑って送り出そうとしているのが、彼には痛いほどわかった。
むろん、当麻にも。
(すみません、お義母さん)
「じゃ、お義母さん、一麻と一緒に行ってきます」
「お義母さま、有り難うございました」
当麻と麻美が深々と頭を下げる。
親子三人を載せたタクシーが走り出す。
美鈴が手を振る。
「元気でねーっ!」
一麻の声が通りに響く。
美鈴はずっと、ずっと見送っていた。
車が見えなくなってもなお、立ちつくしていた。
白いハンカチを握りしめて。
(第一部 完)
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