610:LX[saga sage]
2012/03/25(日) 20:20:43.43 ID:UnNK66XU0
その質問に対して、彼女はあっさりと答えた。
「もちろん、あのひとです」
「ええと、それは……すまないが、出来れば名前を具体的に出してもらえると嬉しいんだがね?」
おそらく、あの彼だろう、とカエル顔の医者は想像したが、彼女に予断を与えてはならない、と考えた彼は御坂妹に答えを問うた。
「このミサカにとって、『あのひと』と言えば、ただ一人、上条当麻(かみじょう とうま)さんしかあり得ません」
今さら、わかりきったことを何故貴方は訊くのですか、と言う顔をする御坂妹。
「念のため確認するけれど、上条、上条当麻くん、ということ、なんだね?」
「はい。このミサカの身も心も、全てはあのひとのものです。他の男性に、ミサカは自分をゆだねるつもりは毛頭ありません」
彼女はきっぱりと言い切った。
あの、彼か……最近はここへ来ていないようだが……とカエル顔の医者は、一時期ひんぱんに担ぎ込まれていた名物学生の顔を思い出す。
――― 若さ故、のあやまちなのか ―――
なぜ、避妊しなかったのか、彼もそう言う意味では、普通の男だったのかな、とカエル顔の医者は心の中で嘆息する。
彼は再び御坂妹に質問する。これもまた、極めてsensitiveなことである。
「教えてくれてありがとう。もうひとつ、失礼な質問を許して欲しいんだが、君には、その子を産み、育てる意思はあるのかい?」
果たせるかな、彼女はまなじりを上げ、彼をキッと見据えて即答した。
「もちろんです。このミサカに、あの人の子の命が宿ったことは、運命の必然です。
何があってもわたしはこの子を産み、立派に育てることを決意します」
「自分の命にかえても? もし、どちらかの命しか助からない、としたら?」
「あなたは冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>でしょう? そのようなことは起きえないと思いますが」
にこりともせずに御坂妹は答える。
「万一、そうなったら、わたしは、このミサカの命に代えてでも、この子を守ります」
「ははは、これは一本取られたね。そうだね、ありがとう。
もちろんぼくはそのつもりだよ? 君の協力を得ることもあるだろうけれど、ぼくは全力を尽くす。
ぼくの畑違いの分野のこともあるかもしれないが、そこは信頼できる人間に頼むことにするし、安心してくれていいよ?
君は、健康な赤ちゃんを産むことに専念して欲しいね」
「もちろんです、先生」
初めて、彼女は僅かに微笑んだ。
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