699:LX[sage saga]
2012/05/06(日) 22:34:53.19 ID:RpQV+FS/0
「なんてこと、かしらね……」
美琴がおかしくなったと言う理由はこれでわかった。
母・美鈴は、学園都市に一人でいる美琴を思う。
今すぐにでも飛んでいって、あの娘を抱きしめて上げたかった、慰めてあげたかった。
あの娘は、どれほど打ちのめされたことだろうか。
あの娘は、どれほど悲しかっただろうか。
あの娘は、どんなに悔しかっただろうか。
勝ち気な性格がわかりやすいから、みんなはあの娘をそう言う目で見ているけれど、それは、あの娘の一面でしかないのに。
「お父さん、大丈夫かしら……」
落ち込んでいる美琴をみて、あの人(旅掛)は、うまくあの子を慰めているだろうか?
大丈夫だろう、と彼女は思い返す。自分の可愛い娘だもの、うまくやるわよ、と。
チャイムが鳴った。
「あら、上条さんかしら」
何か忘れ物でもしたのだろうか? 今まで彼らが座っていたところをもう一度ざっと見るが、そこには何もない。
(誰かしら?)
しかし、モニターに写った人物を見て、美鈴は脱兎の如く玄関に走り、焦る手でロックを外すと思い切りドアをバンと開けた。
「おう、連れて帰ってきた」
そう言いながら、夫・旅掛が門扉を開けて入ってくる。
乗ってきたのであろうタクシーが、家の前から走り去って行く。
「……」
旅掛の後に隠れるように立つのは、ウインドブレーカーで顔を隠している美琴。
うつむいたまま、一言もしゃべらない娘に美鈴は思わず駆け寄り、ひし、と彼女を抱きしめた。
「辛かったでしょ? 苦しかったでしょ? もういいの。もういいから、ね? お母さんが、わたしが守ってあげるから」
娘を安心させるように、小さく、でもはっきりと耳元でそうささやく美鈴。
「お母さ……ん? ……う、うっ……ううっ……ぐ、うっ」
美琴の肩が震え始め、必死で耐えていたのだろう、嗚咽が再び漏れ始める。
「お、おいおい、ようやく落ち着いたのに、母さん、ここでまた……」
黙らっしゃい、と無言でにらみつける美鈴の目に、旅掛は黙りこむ。
「さぁ、美琴ちゃん、おうちへ入ろう? そこでぜ〜んぶ聞いて上げる。もう、我慢しなくて良いんだから? ここは、貴女のおうちなんだから、ね?」
彼女は、肩をリズミカルに優しくポンポンと叩きながらささやきかけ、そしてゆっくりと抱きかかえるようにして美琴を玄関の中に招き入れた。
「お……母さん、わ、わたし……わたし……、取られちゃった、あの子に、アイツを、取られちゃったのぉぉぉぉぉもういやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
よろよろと美鈴に支えられて、玄関に入った美琴は、今度こそ誰にはばかることもなく大声で泣き出した。美鈴にしがみついて。
旅掛が(あの子って誰だ?)という顔で美鈴を見る。
美鈴は(知りませんよ)と目で答える。
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