722:LX[sage saga]
2012/05/20(日) 19:59:53.84 ID:8Ks9kkwp0
「まだ、検体番号10032号は戻ってきていないのですか?」
「すまないね、なかなか難しい仕事なんだよ。しばらくはまだここへは戻って来れないと考えててくれるかな?」
「そうですか……でも、彼女の夢もこの間配信されてきましたし、彼女が無事ならいいのです。わかりました」
いつの間にかいなくなった御坂妹こと検体番号10032号について、同じ看護士の検体番号13577号はむろんのこと、検体番号10039号や検体番号19090号、果ては御坂未来(みさか みく)こと検体番号20001号までもが、度々カエル顔の医者に彼女の行方を問いただしてきた。
その都度、彼は彼女らに検体番号10032号は無事でいること、そして彼女は今現在、ある特別な医療技術の開発に従事してもらっており、その内容は極秘事項の為、彼女とのコンタクトは極めて限られた人間のみであり、それは妹達<シスターズ>であっても適用される、と説明した。
彼女たちは不承不承ながらその内容に同意したが、あきらめずにその都度、彼女の居場所くらいは教えて欲しいと食い下がった。
「それは、出来ない」 彼は常にそう答えるのだった。
冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>は、御坂妹こと検体番号10032号の居場所を上条当麻だけには教えていた。
彼がいれば、彼女の精神は安定し、次の逢瀬を頼りに彼女の精神は緊張を保つだろうと考えていたからである。
確かに、その通りであった。
しかし、その結果、彼女の当麻への依存度は加速的に高まることになる。
彼女は一人ぼっちだった。
昼間はまだ良かった。具合が良い時は聖ルカ病院が手配した月極のマンションから出て、街を歩いて見て回る事が出来たから。
学園都市では見られない、古い建物や商店が雑然と並ぶ町並み、学園都市では売っていない食べ物、そして数多い大人、全てが珍しかった。
しかし、夕方以降はたった一人。
育児書を何度も読み、時間を潰していたが、やがて殆ど全てを暗記してしまうと、またすることがなくなってしまった。
彼女の心の支えは、たまにやってくる当麻だった。
ひたすら彼を恋い慕う彼女は、当麻の来訪を楽しみに生きていた。
僅かな逢瀬の時間を、ひたすら彼女は彼に甘えて過ごした。
普段大人しい彼女だが、やってきた当麻にはそれまでにあったことを、嬉しそうに楽しそうにあれこれと喋り、楽しそうに笑った。
「どんどんあなたに染まってゆくのが、わかります。わたしは、あなたの女……ミサカは幸せです」
当麻もまた、美琴と会えなくなってしまった今、寂しさを紛らわせるのは彼女しかいなかった。
自分に頼り切っている御坂妹の姿は、美琴とは正反対で珍しかった。
そして会うたびに艶っぽくなって行く彼女を見るのはある意味楽しいことでもあった。
しかも、彼女のお腹には、彼の子供がいるのだ。
それでも、当麻の心には、美琴がいた。
「ひとりにさせて!」
振り返らずに走っていった、美琴のうしろ姿が。
会えなくなってわかった、美琴への思い。
自分が愛している女性は、間違いなく、彼女。
だが、今や自分だけを頼りにして生きている御坂妹を冷たく振りきる事は、もはや彼には出来なかった。
そんなことをすれば、彼女は、お腹の子は……。
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