777:LX[saga sage]
2012/06/11(月) 00:31:26.46 ID:FxMeYeFV0
「お、おいおい、それはないだろ?」
あわてる当麻。
強引にキスされたのは俺の方なのに、と彼は思う。
「冗談です。これは、このミサカの一生の宝物の記憶です。他のミサカになど渡せるものですか、ふふ」
小声で笑う検体番号10039号。しかし、彼女の目が笑っていないことに当麻は気が付いていた。
「もうひとつ、あなたにお聞きしたいことがあるのですが」
彼女はようやく腕を解くが、今度は彼の傍にすり寄り、肩に頭を載せた。
シャンプーの香りが当麻の鼻をくすぐる。
「検体番号10032号の行方がずっとわかりません。あの医者に訊いても教えてくれません。あなたは、何か聞いていませんか?」
思わず当麻の目がピクリと動くが、ミサカが顔を上げたのはその後だった。
「いや、何も聞いてない。連絡が取れないのか? いつから?」
嘘をつかねばならないことに、当麻の胸は痛む。
だが、絶対に言うわけにはいかない。
「本当ですか? 検体番号10032号のことですから、『あなた』には何か伝えているのではないかと思っていたのですが……そうですか……。
『あなた』にも言えないということは、本当に極秘事項の仕事なのですね……」
「無事なのか? そこらへんはどうなんだ?」
無事もなにも、彼女は今や立派な妊婦だった。お腹の中にいる、自分の子と共に。
「無事なのは間違いないようです。その点では安心しているのですが……あの医者はそこまでウソは付かないでしょうし」
「やっぱり心配なんだな」
「もちろんです。同じミサカですから……いえ、ミサカの中で、検体番号10032号は誰よりもあなたに恋い焦がれていました。憎たらしいほどに。
お姉様<オリジナル>から、あなたとの婚約が決まったと聞かされたあと、このミサカは検体番号10032号と愚痴をこぼし合ったのですが、突然彼女は走って行ってしまいました……。
その後、一度も会っていません。検体番号10032号はもともとネットワークにはあまり接続しないミサカでしたし……!!??」
突然、検体番号10039号の顔に緊張が走る。
「当麻さん、靴を履いて下さい」
「ん? どうした?」
「ミサカが接近中です。微弱ですがミサカ達特有の電磁波を感知しました。1人のようですが……当麻さん、ベランダに出ていて下さい。
運が良ければ追い返せますが、部屋に入られたらアウトです……」
そう言いながら、彼女はベランダに面したサッシを開け、タタキにあったワイヤーステップを下へ投げ落とす。
「これで最悪、下へ降りられます。とりあえずベランダに」
検体番号10039号はそう早口で説明した。
「ありがとう。俺は降りるよ。ミサカは時間を稼いでくれると助かる。いろんな話をしてくれて有り難うな、また連絡する」
そう言うと当麻は片手をひょいと上げて挨拶する。
「はい。待っていますから。これも貸しですからね?」
顔を輝かせて検体番号10039号は満面の笑顔を見せた。
だが、当麻はただではすまなかった。
検体番号10039号の部屋からの脱出には成功した。
しかし、寮の様子を見に戻る途中でミサカの一人に見つかり、かつてのような学園都市内を走り回る追いかけっこが始まったのだった。
その相手は美琴ではなく、彼女のクローンであることが、昔とは違っていたけれど。
1002Res/1293.21 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。