823:LX[saga sage]
2012/08/19(日) 20:48:16.86 ID:4tGOQ92R0
第三学区、国際展示場。
学園都市の科学技術を紹介するイベントが数多く開かれる、その場所。
今日は展示会の谷間なのだろう、だだっ広い会場には殆ど人の姿がない。
学園都市が誇る警備ロボットや清掃ロボットたちも、手持ちぶさたのように静かに佇んでいる。
しかし、その中の一角、C棟だけにはバスが次々と横付けされて人が降りてその中に入ってゆく。
珍しいことに、降りてゆくのはどうやら女性ばかりのようだ。
まだうら若き美女たちの大集団。
もし、その場に居合わせたひとが居れば、その女性たちは、髪型・化粧・ファッションは違えど、何故か全員がよく似た顔立ちであることに気づいたことであろう。
そう、彼女らは上条当麻争奪戦に参加した妹達<シスターズ>の面々であった。
全世界に散らばった妹達<シスターズ>、その数およそ1万人。そのうち1600人ほどが今、この場所に集結しつつあった。
実は、彼女ら自身、今まで一カ所にこれだけの仲間が集まった経験はないため、ちょっとした興奮状態にあった。
普段はミサカネットワークという脳波リンクで繋がっている彼女らであるが、息をし、熱を持ち、言葉をしゃべる現実の身体を持って集まって来ている1600人という膨大な数の「ミサカ」たちの存在を、自らの五感全てで実感するということは初めてであり、いやがおうにも心地よい緊張と興奮を呼ぶのだった。
更に、ここにいるミサカ達は、通常は疑似姉妹(もちろん並列ではあるが、一応普段はロットが古いものが、そして番号が小さいものがお姉さん的立場になる。とはいえ、これだけいると殆ど意味がない)であり、仲間であり、そして最も重要なことであるが、今日に限っては全員がライバルであったこともその一因であった。
彼女らは、最初は非常に静かであった。
というのも、彼女らの特徴の一つであるミサカネットワーク、すなわち各人の脳波の相互リンクがあり、これを用いれば会話をせずとも瞬時にあたかもテレパシーの如く意思の疎通が可能であり、しかも記憶すらも共有が可能であるからだ。
しかし、この場において、それはむしろマイナスに作用し始めた。
というのは、今日の目的である、お互いにどう「あのひと」を攻略するか、廻りにいる同じ「ミサカ」たちがどのような作戦を考えてきたかが、共有によってそのまま全員に筒抜けになってしまうからである。
かくして、彼女らは次々にミサカネットワークから離脱し始めたのだが、そうなると今度は意思の疎通には当然ながら「会話」が必要になる。
そう、それは昔ながらの、「おんな同士」の、虚々実々の駆け引きを含んだ「会話」という名の、お互いの腹の中の探り合い。
時代の最先端をゆくはずの学園都市の展示会場C棟の中は、古今東西の昔から変わらない、女性同士の姦しいおしゃべりが支配していたのだった。
会場を見下ろせる控え室の中で、彼女らのお姉様<オリジナル>である御坂美琴もまた、人知れず心を高ぶらせていた。
一つには、自分のクローン、妹達<シスターズ>の生き残り約1万人、そのうちの約1/6とはいえ、1600人に上る姿を目の当たりにしたからだ。
なんせ、優に一つの大規模な高校に匹敵する数なのである。
「……1600人って……こんなに、いるんだ……そして、この6倍の、あの子たちが……ううん、そんなことよりも」
6年前のあの恐るべき実験では、ここに集まっている6倍もの数の妹達<シスターズ>が殺された。
それを思うと、今なお彼女の心は言いようのない悲しみと怒りに締め付けられるのだ。
だが、悲しんでいる時間はない。
同じくらいの数の、今を生きている妹達<シスターズ>がいるのだ。目の前に居る、6倍に上る数の、必死に生きようとしているミサカたちが。
そして昨日、最終個体である御坂未来(みさか みく)から聞いた驚愕の事実。
私は、さっさとこのイベントを片づけて、その問題に取りかからねばならないのだ、と。
「ふん、しかし……よくもまぁ、これだけの茶番を仕組んでくれたものよね」
美琴は吐き捨てるように小さく、そうつぶやいた。
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