911:LX[saga sage ]
2012/10/21(日) 22:35:13.40 ID:UzgGY96z0
「おっと、失礼」
当麻が反射的に顔を背けると、麻美は突然の来訪者に驚いた顔で「あなた……どうしてここが?」と訊いてきた。
一瞬どう答えたものか、と当麻は考えたが
「ん? 美琴が教えてくれたんだよ」と、素直に答えることにした。
「……そうですか」
僅かに彼女の顔が強張ったように見えたが、直ぐに鋭い目を彼に向け、
「あなた、さっきは何をあわてたのですか? この子はあなたの子なのですよ?」と麻美はなじるように言う。
「あ、ああ……そうだよな、母親が子供にお乳をあげるのは別になにも変な事じゃないもんな」
「そうですよ……それとも、あなた? もしかして、あなたは何か邪な考えをしたのですか?」
固かった彼女の顔が少し緩んだように見えたので、少し当麻はホッとする。
「なんだよ、その邪なってのは?」
「出産という女性の大役を勤め上げたばかりのこのミサカの肌を見て、あなたは欲情したのですか?と……」
「何を馬鹿なことを言っているのでせうか、あんたは!」
思わず強い口調で彼は否定する。顔が赤い。
そんな当麻を見た麻美は苦笑しながら視線を落として答えた。
「ふふ、冗談です。正直、ミサカは死ぬかと思いました。もう二度とゴメンです」
沈黙の時が流れ、空調のかすかな音だけが僅かに部屋に聞こえる。
当麻が麻美の傍に腰掛けると、彼女は腰をずらしてそっと寄り添って来た。
「疲れたか?」
「少し。それに、あなたも居てくれませんでしたから、ミサカは一人ぽっちでこの子を産みました。まわりは他人ばかり」
恨みがましい言葉が麻美の口からこぼれ出る。
「すまなかったな」
「いいえ。もとより覚悟はしていましたから……でももう大丈夫です。ミサカはこの子を守らねばなりませんから。
それよりあなた、この子、見て下さいな? 目鼻はミサカそっくりなんですよ? ふふ」
麻美は我が子を少しだけ倒し、当麻に顔が見えるようにと動かすと、目をつぶったままの赤ん坊が離れるのはいや、と言うようにもぞもぞと手足を動かす。
こんなにちっちゃくて、可愛い、という麻美の横顔は、今まで見たこともない優しげなものだった。
赤ちゃんを抱いた麻美のその姿は、絵に描いたような、まさに我が子を慈しむ母親そのものであることに、当麻は感動した。
「そうか? 確かに黒髪なのは俺の方なんだろうけど」
「悔しいのですか? ふふ、この子はミサカの子ですから、ミサカに似るのは当たり前……」
彼女の声が止まる。
――― 彼女は泣いていた ―――
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