976:LX [saga sage]
2013/01/03(木) 23:40:13.37 ID:pp/Lc+sn0
今は御坂麻美という名を持つ彼女のクローン、検体番号10032号との間に、彼は男の子をもうけていた。
ものの見事に出し抜かれた美琴であったが、今、無邪気に喜び、自分を褒め激励してくれる夫の姿は嬉しかった。
あの子の「策略」で生を受けたあの男の子と、こうして望まれ喜びを受けて生をうける(だろう)自分の子。
そう思うと、美琴は自分を誇らしく、そしてほっと安心したのだった。
だが、すぐに彼女は暗い気分になる。
あいつが、あんなに喜んでいるアイツに、私は。
「で、どっちなんだ? 男? 女?」
嬉しそうな顔で自分の顔を覗き込み、お腹に視線を走らせる当麻に、内心の忸怩たる思いを隠して彼女は
「わかるわけないでしょ、バカ! まだ無理。もう少したたないとわかんないわよ」
とつっけんどんに答えるしかなかった。
「そっか、そりゃそうだよな、うん。さーて、美琴に子供が出来たって教えてやらなきゃな。
そうだ、お前、自分の家にはもう連絡したか?」
美琴のぶっきらぼうな返事も気にせず、当麻は嬉しそうに目を空に走らせ、再び彼女の顔を見る。
「まだ」
「連絡してやれよ、お父さんもお母さんも間違いなく喜ぶぞ? なんたって……」
後の言葉が途切れる。そう、彼女の実家には……
「気にしてないわよ。あとでするから」
「そうしろ、いや今しちゃえよ、な? オレも早速連絡すっからさ」
彼の頭の中では、旅掛・美鈴の祝福を受ける妻・美琴の姿が、そして刀夜・詩菜とともに喜ぶ自分の姿が投影されているのだろう。
「ダメ。今はだめ」
「何でだよ」
不思議そうな顔になる当麻。
美琴は一瞬躊躇した。が、言わなければならない。
(あんた、ごめん。当麻、ごめんなさい) 顔を上げて、彼女は言った。
「悪い話があるから」
「…おい」
顔をしかめる当麻。
「まさか、お腹の子に何かあるって言うんじゃないだろうな?」
「そうじゃないけど……でも、この子に関する事よ?」
「どういう事だよ?」
「……この子は……学園都市の外で育てたいの……だから私もしばらく、外で暮らすつもり。御願い、そうさせて?」
びっくりした顔の当麻。
(そうよね、普通、驚くよね)
美琴は申し訳なさで胸が一杯になる。
だが、当麻の驚きは少し違っていた。
彼も以前に、まさにこの荒唐無稽な話を思いついた事があったからだ。
その時は、美琴がそんな馬鹿げた話を認めるわけがないし、「子供を愛していないの?」と激怒するに決まっていると考え、捨てた考えだった。
まさか、妻たる美琴が……そんな自分の子を……?
二人はお互いにうつむき、黙って立ちつくすしかなかった。
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