977:LX [saga sage]
2013/01/03(木) 23:47:28.19 ID:pp/Lc+sn0
「良かったわねぇ、美琴さん、本当におめでとう」
「有り難うございます」
「当麻さん? あなたしっかりしなさいね。もうお父さんになるのだから」
「え?……ま、まぁな」
「何ですか、そのやる気のない返事は? 良いですか、当麻? あなた、ちゃんと美琴さんの出産の際には立ち会うのですよ?
あなたの父親は、こともあろうに海外出張という理由を付けて逃げたんですから。母さんはたった一人でどれだけ心細かった事か……
ああ、思い出したら私、何だかものすごく腹が立ってきましたわ! 美琴さん、しっかりしなさいね? 私が付いていてあげますから」
「は……はい、有り難うございます」
当麻・美琴の夫婦は、子供が出来たという報告に上条家を訪れていた。
刀夜が海外へ出かけ、一人寂しく過ごしていた詩菜が「そんな目出度い事を電話1本で済ますのですか」という理屈をこね回し、二人を呼びつけた次第である。
彼女は今なお、御坂麻美(みさか あさみ:元検体番号10032号)を「当麻を誘惑した敵」というスタンスで捉えていた。
しかし、彼女とその子供(一麻)を引き取り、東京へと引っ越していった御坂美鈴(みさか みすず)がどうやら生活に新しい張り合いを見つけ、宜しくやっている事に焦燥感のようなものを抱いていた。
彼女は一度、美鈴に電話をした事がある。
電話に出た彼女の後では、子供の笑う声やら、何かその子がしでかしたのだろうか、母親らしき女性の小さな悲鳴と泣き叫ぶ子供の声やらが聞こえていた。
電話を切った詩菜は、静まりかえった自分の家を思うと、やりきれなかった。
子供を育てるというのは多大なエネルギーを消耗する。
子供が大きくなるのと反比例して、自分エネルギーを吸い取られるかのように老い、衰えて行く。
正直、あの大変さはもうゴメンだ、という思いも心にはある。だが、この家の逼塞感は彼女にとってたまらなく嫌なものだった。
当麻を育て上げた事で、私の人生はもう終わったのだろうか……いいや、違う。
まだまだ、私は若い。パワーだってあるんだから、と彼女は萎えそうになる自分の心を励ましていた。
そこに、当麻の結婚、そして、目出度く嫁の妊娠の知らせ、である。
詩菜がはやるのも無理はなかった。
「それで、男の子、女の子、どっちなのかしら?」
「いや……さすがにまだどっちだかわかりません。私は健康であればどっちでもいいんですけれど」
自分の妊娠の時もかくや、と思わせるほど身を乗り出して様子を訊く詩菜に美琴は圧倒されっぱなしである。
「そうよね……でもね、よく言うでしょ、一姫二太郎って。最初はね、女の子の方が楽なんですって、大人しいし」
「よく聞きます。でも、私、結構腕白みたいだったらしいですけれど」
「今でもそうだもんな、痛ぇっ!」
ウケ狙いで合いの手を入れた当麻の足を美琴は素知らぬふりで蹴った。
目の当たりに見た詩菜はまぁ、と言う顔になり、美琴はあわてて頭を思い切り下げる。
「あらあら、いちゃいちゃするのはお家で仲良く好きなだけやってね?
……この子はね、本当によく病気にかかったし、しょっちゅうケガもしていたの。ホント、毎日大変だったわ。でもそれも良い思い出、ね」
当麻ははっとする。彼には昔の記憶がないからだ。
尤も、今、母が話しているような事は、仮に記憶があったとしても覚えているかどうか怪しいくらい昔の事であるが。
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