979:LX [saga sage]
2013/01/04(金) 00:00:39.32 ID:JCikDjuT0
(貴女も、自分の亭主を寝取った女と一緒に居たくないでしょ?)と言うような、美琴のプライドをぶち壊すような事はおくびにも出さず、あくまでも自分の問題だから、と言う事にして彼女は美琴を誘ったのだ。
怒濤の押しっぷりに土俵際に詰まる美琴だが、彼女の配慮は直ぐにわかった。
(すみません、お義母さま) 彼女は心の底で深く感謝した。
正直、有り難い話ではあった。彼女が暗に言う通り、麻美と一緒に住む事には非常に抵抗があった。
もっとはっきり言えば、「嫌」であった。如何に「母」の元と言っても。
それに、彼女の表向きの理由にも美琴は共感していた。確かにこの家にたった一人、ぽつねん、と居るのは寂しい事だろう。
古来から今なお存在する、「嫁」VS「姑」という対立する関係になる可能性も高いが、麻美と一緒に住むことで何かにつけて比較されることになるのは避けたかった。
また、彼女自身もおそらく嫌だろう。自分の過去の過ちをいやでも毎日思い出す事になるのだから。
とはいえ、この場で安請け合いはしたくなかった。
自分にもささやかだがプライドがあるし、それに自分の母にも言わなければならない。母はどう言うだろうか?
「いえ、お気持ちは大変嬉しいのですが、それではお義母さまにご迷惑がかかりますし……」
「あらあら、だからそう難しく考えなくていいのよ? 私が貴女に御願いしてるのだし。
前向きに考えて下さっているのよね? ああ、良かった、これから女同士、心おきなくおしゃべり出来るのね!
ホント、美琴さんが一緒にいてくれるのならもう夜も安心だわ ね、どのお部屋を使いたい? ちょっと見に行きましょ?」
あ、あの、と言う間もなく、詩菜は美琴の手を取って立ち上がり、彼女を引きずるようにして二階の階段を上がってゆく。
(こりゃ、こっちで決まっちゃうな、間違いなく)
後に残った当麻はぬるくなったコーヒーを流し込む。
彼も、正直、美琴がこの家に住む事には反対ではなかった。
父・刀夜が世界各国を股に掛けて飛び歩いている為に、母が寂しい思いをしているであろう事はうすうす感じていたが、それをはっきりと目の前で言われたのだ。
(とはいえ、美琴も本当なら自分の親元でのんびりしたいだろうな……)
そう、本来、実家に戻って出産するという事は、精神的な不安を和らげる事に加え、母から娘へといろいろな事の伝承を受けるという事でもある。
嫁と姑。如何に仲が良いように見えたとしても、所詮は他人同士。女対女である。
だが、彼女の実家には。
(今さら、入れ替わってもらえないかな、なんて言えねぇよ……)
それでも彼は、美琴が洗面所に立った時、母親にそれとなく訊いてみた。
すると母・詩菜は、額にしわを寄せて息子を睨むと静かに答えた。
「当麻さん? あなた、この母に向かって、私にようやく出来た『娘』を取り上げるというのかしら?」
ある意味予想していた返答だったが、一つ予想外だったのは、自分の妻であり、そして彼女にとっては『嫁』にあたる美琴を『娘』と言った母の言葉であった。
そしてもう一つ、麻美を母は今なお全く認めていない、という事もまた。
「いやいやいや、例えば、仮の話だから。ほら、美琴も自分の母親の方が気楽だと思うしさ」
「自分の娘が来るから、なんて理由であの美鈴さんが考えを翻すわけがないでしょう?
当麻さん、それって、あの子たちを『もの』扱いしてるってことなのよ? 馬鹿も休み休み言いなさい。
それに、そもそものこの不始末、あなたにも責任があるのですよ? わかってる? あなたは黙ってなさい」
彼は黙るしかなかった。
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