980:LX [saga sage]
2013/01/04(金) 00:26:40.14 ID:JCikDjuT0
新しい御坂家。
美琴もまだ3回目、であるし当麻は初めてだったが、玄関に入った瞬間に、二人は思わず顔を見合わせた。
上条家は死んだように静かな空気であったのに対し、ここはエネルギーに満ちていた。
玄関にある、可愛らしい運動靴が、そこここに転がっているおもちゃが、明確に子供の存在を示していた。
御坂家には、明日に向かって伸びようとするエネルギーが満ちあふれていた。二人は、その勢いを敏感に感じ取っていた。
当麻は正直、一麻がどれくらい大きくなったか見るのが楽しみであった、が、母・麻美と共に二人は公園に行ったという事で不在であった。
母・美鈴が気を利かせたのだろうか、と美琴は考えた。
彼女自身は正直、ほっとしたことには間違いなかったが、夫・当麻の顔に差した影を見逃しはしなかった。
「ごめんなさいね、これでも片づけたんだけど、直ぐにねこうなっちゃうの。すごいわぁ、やっぱり男の子って」 屈託なく笑う美鈴。
「すみません、ほんとご厄介になってます」 頭を下げる当麻に、美鈴は、
「いや、美琴ちゃんもお転婆だったけど、全然違うのね、男の子って。まだ二つなのにね、結構力も強いの。元気いっぱいでね、もう大変よ?」
そう言うと、娘・美琴に向かってにやりと笑い、
「あんたも覚悟しときなさいよ? 男の子だったら一日引きずり回されちゃうからねー? まぁ元気な子ならどっちでもいいけど」
ポンと軽く娘の肩を叩き、優しくお腹を撫でさすった。
「えー、私、子供の時は大人しかったわよ?」
「あら、そんな事あったかしらねぇ? ま、ここで話すのもなんだから、客間に行きましょう?」
笑いながらそう言って、彼女は二人を案内して客間へと入った。
「美琴ちゃん、おめでとう。よかったわね、貴女もひとの親になるのね、なんだか私、急に歳取っちゃったような気になるわ……」
お茶を入れながら、しみじみとつぶやく美鈴。娘に言い聞かせるような、自分に語りかけるような雰囲気で。
「ついこないだまで、ゲコ太のぬいぐるみ持って走り回ってた子がねぇ……ふふ、あ〜ぁ私もおばあちゃんか、やだなそういうの」
「ちょっとお母さん、誤解されるでしょ、それ? それって、ずっとずっと昔の、うんと小さい時の話でしょっ?」
美琴が色をなして抗議する。
「いや、今でもゲコ太の……」と言いかけた当麻が、美琴に思い切り抓られて「痛ぇ!」と叫ぶ。
「貴女もそのうちわかるわ。親から見る子供はね、いつまで経っても子供のままなのよ」
「そんなこと……」
「私が大切にしてる美琴ちゃんの記憶って、子供の時のものだからね……私の宝物だもの。
ま、貴女も苦労するでしょ、でもね、その分だけ、思い出が出来るのよ。親だけに許される思い出が、ね。
大切にしなさいね、二度と帰ってこない時間なんだから……」
当麻は、神妙に義母・美鈴の話を聞いていた。だが、話の終わりで、彼は美琴の横顔をそっと盗み見た。
彼女は、俯いて、じっと母の言葉を聞いていた。
彼は、一瞬迷った末、「あの、ですね」と切り出した。美琴が言い出せないのでは、と思ったからである。
「ありがと。私、言うから……私の口から、言うから」
決意を秘めた真剣な顔で、彼女は夫・当麻の顔を見て、母親に向かって話を切り出した。
「お母さん、私、この子は学園都市には置かないつもりなの。この子は、ごく普通の子として、育てたいの、育って欲しいの」
「どういうこと?」
驚くかと思った美鈴は、案に相違して落ち着いた顔で娘の顔を見返す。
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