過去ログ - 唯「あずにゃんが横浜のドラフト1位!?」憂「クライマックス!」
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125:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2011/07/26(火) 02:19:05.29 ID:3jt9zNrk0

「ふう…もうこのへんにしとこうよ」

いちごはグローブを外し、汗ばんだ左手をタオルで拭きながら言った。
澪も同意したようだったので、外したグローブを元の木の影に戻す。

「ゴミ箱に入れるべきだったのかな」

自販機の前に立ってジュースの品定めをしている澪の背中に話しかけた。

「いや、元の場所に置いといた方がいいんじゃない?あそこにわざと置いてるのかもしれないし」

「そんなことするかな」

渡してくれたカロリーゼロの炭酸飲料のフタを開けながら、首をひねった。

澪が腕時計に目をやっている。自分も携帯電話の時計を見てみると、もう随分と時間が経っている。
思えば、すずしいこの場所でも汗が噴きだすほどキャッチボールをしていたのだ。
さっきまで楽しそうにボールを投げていた澪も、これほど遅くになっているとは思ってなかったのだろう。
くちびるを小さく噛んで、考えるそぶりを見せている。

「随分遅くなっちゃったな…。あんまり遅くなるとアレだから、じゃあ、私これで」

「道わかる?」

「大丈夫。すぐそこのホテルだから」

二人は少しホテルの場所について会話を交わしたのち、それが礼儀であるかのようにアドレスの交換を始めた。
言いだしたのは澪からだった。とりあえず澪のアドレスをいちごに送り、「好きな時に返事ちょうだい」と言うことだった。
こういう場合の「好きな時に」は、「その日のうちに」と同義であることは、人づきあいが達者でないいちごにも分かっていた。

「それじゃあ」

公園出口、月光が澪の白い顔を照らし、彼女の柔らかな頬笑みをますます清らかにした。

「若王子さんとこんなに話せて楽しかった。また会おうね。今日は本当にありがとう!」

はじめの人見知りはどこへやら、澪はすっかり少女の無邪気さと大人の社交性を併せ持った顔をして、滑らかな口調でそう言った。
今日のように、どんなに自分らしくないことをしたとしても、この口調は自分には出来ない、と思った。

『楽しかった。また会おうね』

きっと自分には言えない言葉だと思いながら、いちごは、去りゆく、時折振り返って笑顔を見せる一人の女性に手を振り続けていた。

そして自分のそういう一面が――

ふっと心に浮かんだそんな言葉は、さっきまで美しくひかめいていた月を、いつの間にか薄雲の向こうに隠してしまった。



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