過去ログ - 唯「あずにゃんが横浜のドラフト1位!?」憂「クライマックス!」
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130:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2011/07/26(火) 17:03:51.59 ID:3jt9zNrk0
蛍光色のゴムボールが二人の間を行き来する。

いちごが時折ゴロを転がしたり、高く上に放り投げてみたりすると、女の子もそれを追って必死にパタパタと走る。
グローブはやはり女の子には大きすぎ、まともに捕球はできないようである。
だが時々ボールがうまくグラブに収まると、その度に汗ばんだ顔でにっこり笑うのだった。
そんなことをしているうちに、あっという間に数十分が経ってしまった。

「これくらいにしとこう」

女の子はもっと出来るとほほを膨らませたが、幼い女の子ならそろそろ家に帰るべきだろう。
女の子がグラブを外して、汗をぬぐっている。
それをぼんやり眺めていたいちごは、何かを思いついたように小さく眉を持ち上げた。

「これ」

いちごが差し出したのは、ジュースだった。
女の子は一瞬きょとんとそれを見つめたが、もらえるのだと分かるとパッと真面目な顔になって頭を下げた。

「あ、ありがとうございます!」

急な敬語に、思わずつい口元がほころんだ。
きっとお礼を言うときはそうするように親御さんにしつけられたのだろう。

「家まで送ろうか」

「いい!大丈夫!」

「そ」

またはじめの快活な少女に戻ったようで、いちごは安心した。

「でも、お母さん心配してるんじゃないかな」

「いないよ!夜まで私しかいないの!」

女の子はまた明快に答えた。
聞きたいことがないではなかったが、彼女の明るさを失わせるようなことはしなくなかったので、

「そっか」

とだけ言っておいた。

「ね、今度はいつきてくれる?」

ジュースを飲みきった女の子が尋ねた。
いちごは、予定を思い出して、この時間に来られそうな直近の日を教えた。女の子は八重歯を見せて笑った。

そうか。彼女はずっとグローブをああいう風に使って来たことがなかったのだ。
今までは、初めて彼女を見かけた時のように抱きかかえてばかりいたのだろう。
できるだけ、この時間があけられるようにしよう。それが自分の役目のようにも思えた。

「それじゃあね。お姉ちゃん、バイバイ」

女の子は手を振って、そのままくるりと背を向け、夕方になりかける街の中へ駆けだした。
木陰に残されたグローブについて言っても、大きな声で「いいの!置いといて!」と答えるばかりだ。
そのうち、彼女の幼い背中はすっかり見えなくなっていた。


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