過去ログ - 唯「あずにゃんが横浜のドラフト1位!?」憂「クライマックス!」
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134:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2011/07/27(水) 12:31:42.32 ID:B52d7inW0
「パパのだもん」

「え?」

「パパが買ってくれたの。一緒にこれで遊ぼうって」

「……」

「私、イヤって言ったの。おっきいし、手が痛くなるし、つまんないから」

女の子はそれから言い淀んだが、一度きゅっと唇を結んで、勇気を振り絞るように言った。

「そしたらね、いなくなっちゃったの。怒って、家からいなくなっちゃったの」

「……」

「私がね、イヤって言ったから、私が、私が…」

いちごは何か言葉をかけようかと思ったが、言葉を詰まらせながらもなんとか言葉を繰ろうとする女の子を見て、
とにかく彼女が話してくれる限りのことを聞いてあげようと思いなおした。

「そしたら、ママがこれを捨てなさいって。家にもっていちゃダメって」

「………」

「ママが怒るから、パパのグローブ捨てなさいって言うから、でも捨てたくないって思ったから、だから…」

いちごはもう一度、彼女の抱えたグローブを見た。
雨と土と泥を吸ったそれは、表面をどんなに拭いても、ぬぐいきれないくすみが底光りしている。

「だから、これがいい。これじゃないと、パパが戻ってきてくれないもん。
 これで一杯遊んでたら、きっとパパもご機嫌なおして、また戻ってきてくれるから…」

いちごは、涙をこぼしはじめた女の子の背中を優しく撫でた。
小さく、そして熱い背中だった。
この背中にかけられる言葉を探したが、やはり見つからない。
何を言っても彼女を傷つけるように思えた。

そうやってしばしの時間が過ぎた。
もう日が暮れる。
女の子は赤い目をこすって、いびつな笑い顔をつくって、いちごに別れの言葉を告げた。

「新しいグローブありがとう。でも、でもやっぱりこれがいい。じゃあね、じゃあね」

女の子はいつもと同じように、街の中へ駆けて行った。

それを見計らったように、ちらちらと雪が舞い始めた。
雪はひらひらと風に踊りながら、いちごの手や首筋に落ちていく。
けれど、冷たさを感じる間もなく、それらは融けて消えていく。

「…帰ろうか」

少し早目のクリスマスプレゼントは、来たときよりも随分重たく感じた。


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