過去ログ - 吹寄「上条。その……吸って、くれない?」
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924:nubewo ◆sQkYhVdKvM[saga sage]
2012/02/17(金) 01:35:08.72 ID:SKE9GiOQo

「おはよう」
「あ……お、おはよう吹寄さん」

廊下で談笑していたクラスメイトの女子が、僅かにたじろぎつつ挨拶を返す。
いつもは理不尽に苛立ちを撒き散らしたりなどしない吹寄が、今日に限っては分かりやすく怒っていた。

「昼休みに、一言いってやるんだから」

上条がさっきとった行動は、間違ってはいないと思う。
二人で逢引していたところを目撃されないように、ちゃんと吹寄を隠しながら出て行ったのは、行動としては正解だ。
だけど、それをそのまま認める気にはなれなかった。上条が一緒に連れ歩いた相手が、友人の姫神だから。
正確には、別に友人であるという部分はどうでもいいのだ。問題なのは、姫神秋沙が、転校するより前から上条と知り合いだということ。
それは今になって、吹寄を苦しめる一因だった。
姫神はいい友達だ。その性格上、吹寄は真面目なタイプの知り合いのほうが好きだ。何事にも丁寧な姫神には好感を抱いている。
だが、好感を持てることが問題なのだ。姫神を好きになる男子の気持ちは、分からないでもない。自分よりも男子受けのする性格と容姿だろう。
……もしかして、上条とお似合いなのは、自分よりも姫神ではないか。姫神と上条がニアミスするたびに、この一週間、そんな不安を抱えていた。

教室の扉を開いて、近くにある自分の席を目指す。
周囲にいたクラスメイトに軽く挨拶をして、鞄の中身を机に移してふと顔を上げると、なんだか雰囲気がいつもと違っていた。
クラス中の視線が、盗み見るように時折こちらに向けられる。視線の先は自分ではなく、ちょっと後ろ。

「おはよう。吹ちゃん」
「おはよ。これ、どうしたの?」
「……さあ」

いつもより、姫神の態度は素っ気無かった。困惑の表情を浮かべてはいたけれど、どこか、追求を避けるようなニュアンスがあった。
姫神は僅かに首をかしげて軽く髪を整え、クラスメイトの視線を振り切るように何も書かれていない黒板を見つめた。

「話の中心は姫神?」
「……それと上条君」
「えっ……?」
「さっき。たまたま上条君と会って。一緒にちょっと廊下を歩いて教室に入ったんだけど。それを見て皆が何か考えているだけ」
「……」

姫神の頬が僅かに染まったような、そんな気がした。それが気のせいでないと吹寄は直感的に確信した。
上条の方を見つめると、尋問でもされるかのように、土御門と青髪に見下ろされていた。
困りきったような顔で、こちらを見つめてきた。

「カミやんどっち向いてるん?! 姫神さんに助けでも呼ぶ気?」
「はあ? いやだから、違うって!」
「つまらない意地を張ってもいいことなんて一つもないにゃー」
「つーか別に姫神のほうを見たんじゃなくて、吹寄が入ってきたから」
「ハァァァ? カミやん次は吹寄さんなわけ? 浮気するなんて姫神さんだけじゃなくて僕らも許さんよ? 相手がいること事態も許せへんけど」
「浮気って、全然ちげーよ!」

もう一度、情けない顔で上条がこちらを見た。その表情を見て、カチンとなった。
――――浮気ですって?
冗談じゃない。上条が自分を見るのは、浮気でもなんでもない。
本命は、他の誰でもない、自分なのだから。そのはずだから。
徒にクラスメイトに関係をバラしたりはしないと二人で決めてはいたけれど、こんな事態になってもはっきりとしない上条の態度が嫌だった。
言ってくれたって、良かったのに。
姫神との関係を疑われて、そんな風にヘラヘラと困り顔をこっちに向けてくる上条が、嫌だった。

「ほらカミやん、吹寄さんに助け求めたって無駄やね。呆れて返事もしてくれへんし」
「ってかなんか吹寄の機嫌は微妙によくない気がするにゃー」
「それはそうと、ほら、朝礼まであと二分しかないし早く吐けカミやん」
「何を吐けってんだよ」
「いつからや!? どこまでや?!」
「質問の意味がわかりませんね! さっぱり」
「シラ切っていいことなんか一つもないぜよ?」
「もう一度聞くでカミやん。いつから姫神さんとお付き合いしてて、どこまで姫神さんと行ったんや?」
「どこって。さっき廊下で出くわして、この教室まで行ったけど?」
「……一体いつまで尋問されたいんかな? 言っておくけど、僕らだけちゃうよ? 追及の手は」

コクリと、教室全体が頷いた。姫神と吹寄を除いて。
そして、何処からともなくポツリと、呟く声が聞こえた。



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