6:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga sage]
2011/07/22(金) 05:11:41.66 ID:J8mzbhI+o
「流浪人」
倒れた男が呟いた。
「は?」
少女は言葉の意味が分からず聞き返す。
「拙者は流浪人、あてのない旅の剣客でござるよ」
男は顔を少女に向けて言葉を放つ。
「……」
その言葉を聞いて、少女の中にある嫌な予想が浮かぶ。
「今さっきこの町に着いたばかりなのに辻斬りと言われても何のことやら――」
少女の顔が男の身に纏う着物と同じ色、赤に染まっていく。
つまりは、勘違いだったのだ。
「じゃ……じゃあ腰の刀はどう説明する気?剣客だからって帯刀は許されないわよ!」
「いや、これは……」
と、腰の刀を渡し、その刀身を見せる。
「何これ……逆刃刀?」
そう、男の持つ刀は逆刃刀――峰と刃を通常とは逆にしてある刀。
人を斬ることが寧ろ困難になってしまう凶器。
何より、男の持つ物には刃こぼれ一つどころか血の匂いも、脂も、曇りも全くない。
新品同様、まるで模造刀のようなものだった。
それを見れば人を殺していないことは明らかに分かった。
「じゃあ、あなたは本当にただの……」
「そ、流浪人」
少女は自分の勘違いを恥じるとともに、ある疑問が湧いてくる。
「でもなんでわざわざこんな使えない刀を――」
突如、笛の音が少女の声を遮る。
「警察の呼笛!今度こそ……!!」
手に持つ逆刃刀を投げ捨て、一目散に走り出す。
男は投げ出された逆刃刀をどうにか受け止める。
闇の中、青は消え去り、赤だけが取り残された。
「――……どうやら、拙者の知らない所で事が生じている様でござるな」
赤は闇に映えた。
48Res/17.78 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。