過去ログ - ダイブ イン ダンジョン
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32: ◆Q6CGh0.8HA[saga]
2011/07/30(土) 12:47:20.59 ID:mswEjedSO
「えっ、いや、でも……」
そんな酒がなみなみと注がれたグラスがずい、と眼前に現れたのだ。余りの高貴さに当てられた私は素直に手を出せなかった。
「遠慮すんな。高い酒ってのはこういう時に一番輝くんだよ」
空いた間を見て彼は言う。
やっぱり高いのか。
まぁ、そんなことで何時までもビクビクしていては平行移動するだけなので、覚悟を決めてしっかりとグラスを握る。
「受け取ったな。それじゃぁ、乾杯の合図は勇者ちゃんに任せる。好きなタイミングでどーぞ」
「私がするんですか!?」
「そりゃそうよ。勇者ちゃん、リーダーだもの」
む、無茶苦茶だ。勇者だなんて私は自分から名乗ったことはない。
なのにいつの間にか私がリーダーで、乾杯を取るのが私の役目だと言うのか。
「分かりました」
偶像対象として扱うかのような彼の態度に少し、ほんの少しだが腹が煮えた。
理想の押し付けの犠牲としているワケではないと分かっているが、今のは似たようなモノだ。
女神様への賛美から始まり、人々の愛を説き、魂の善なるを唄い、この世の救いを祈ってからお互いに契約を交わし、乾杯。
言われた時は困惑しながらもそんな形式通りのやり方をしようかと頭の隅で考えていたが、今をもって完全に破棄。
乱暴だろうがなんだろうが言いたいことを吐き出せてもらおう。
「グラスを掲げて!」
「おう!」
杯が私達の頭上に並ぶ。
ちょうど朝日も照りだし、世界の全てが幻想的な朱と黄金に満たされる。
「我ら此処に祝わん!愛する女神の祝福と大バカ野郎2人に!」
「は?」
「乾杯ッ!!」
茫然とする彼を置いて一方的に杯を打ち付け凛とした音を朝焼けに乗せて、勢いままに注がれた酒を一気に喉へと放り込んだ。
美酒はまだ冷室の気を残しており、ひんやりとした中に滑らかな甘さと一面に咲き誇る花の芳香が際立つ。
その優美な見目と上品な味わいに反してアルコールは攻撃的に高く、喉奥に心地よい熱と刺激をもたらし、身体中の血が瞬く間に踊りだす。
含んだ酒を飲み込んでから、底から沸き上がる甘い香りと舌に残る妖艶な味覚に時間をかけなかったことを後悔した。
勢いって怖い。
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