過去ログ - 今日この板を見つけた俺がおまえらの書き込みから適当に物語を進める
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66: ◆LeqE6uV6e6Od[saga]
2011/08/02(火) 22:40:03.73 ID:e+mZVVYc0
父親を追い出してから、僕は部屋の電気をつけ、カーテンを開けた。
何年も動かしていなかったせいで、とても滑らかに開いたとは言えなかったが、苦労して開ききると夕陽が部屋の中に飛び込んできた。
それはまるで努力した先に待ち受けている栄光に思えたし、そうでなくとも黒色しかなかった部屋の中に色彩をもたらした。

一時の爆発からやってきた感情では、物事を成し遂げるまで持続しない。
そのことを、今までの人生の経験から知っていたが、やる前から諦めようとは思わなかった。

一作品、一作品だ。本気で物語を書き上げよう。
一切手を抜かないで、推敲に推敲を重ねて、現在の自分の全勢力を注ぎ込んだ作品を――。

それで駄目だったら、漫画家の先生のアシスタントを申し出よう。
誇りだとかそういうものは全て後ろに置いて、頭でもなんでも下げてやる。
そして、もう一度そこで総決算を作品にぶつける。本当の限界が見えるまで、何度も何度も。

(どうしても駄目だという限界を感じたら、僕も幼馴染のように首を吊って死のう)

生きるということを、僕は今まで軽んじていた。
今更そんなことに気がついてしまっても手遅れかもしれない。もう自分自身に満足な価値は残っていないかもしれない。

元来、人間の価値はまったく無いんだ。
第三者から見れば、生きていようが死のうが関心を向けられることは無い。
僕が今も地球のどこかで死んでいっている子どもたちのことを自覚していないように。

生きている最中に他人を増やし、他人に影響を与えて価値を上げていく。
誰かを常にで蹴落として自分の順位を上げ、有為であることを世界に知らしめるんだ。

大多数の人間には『自分』なんてもの、ほとんど存在しないんだ。そんな存在が許されるのは、ほんの、十年間程度。
人は順位を維持するためにはいくらでも仮面を付け替えて自分を価値を上げようと工夫するんだ。

(今なら、幼馴染の気持ちがわかる気がする)

彼は、十代に命を懸けていたんだ。何者かになろう、と闘ったんだ。
そして負けた。敗残処理はきっと自分の身の丈に釣りあっていなかったから、周りに迷惑をかけて首を吊ったんだ。
生きるか死ぬかの大博打をいつ打つかは個人の自由だけれど、自分一人で抱え込めないことにまで膨れ上がらせたことは僕と同類で、褒められたものとは言えなかった。

「『いつかやる』なんてヤツは、一生やらないのさ」彼がよく言っていた言葉を口ずさんでみたが、僕には似合わないようだった。

幸運にも、僕は恵まれていたからまったくの無価値でもここまで生きてこれた。
父親に迷惑をかけ、編集者に遊びの延長に付き合ってもらい、インターネット掲示板では自己満足の相手を見つけた。

そんな日常がいつまでも続かないと予期していて、まったく揺れないものとして根幹で知っていたから、こうやって立ち向かえるんだろうか。
感情の激流は目を開けたままの僕を夢の世界へと連れて行ったんだ。

小難しいことはどうでもいいか。今の錯乱状態が明日には完治しているかもしれないのだ。


そんな僕にも、ただ一つだけわかったことがあった。
雑踏がないと眠れない街の中、コンクリートの床で眠る勇気は僕には無い。


終わり


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