23:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県)[sage saga]
2011/09/05(月) 01:23:45.52 ID:S80mhRzpo
常盤台中学校寮。その一室。
シャワールームから、ずいぶん長く水音が響いていた。
「……」
長い髪を身に纏わせ、頭からシャワーを浴びているのは、白井黒子だ。
美琴が部屋を出て行って、戻ってこないことを確認してからすぐシャワールームに入ったため、もう一時間近くにもなる。
やや熱目の湯を、長時間。しかしにも関わらず、彼女の顔は冷水でも浴びているかのように、青ざめていた。
――おまえが条件を呑むんなら、美琴には手を出さないぜ?
脳裏に浮かぶのは、普段からは想像もつかないような、酷薄な笑み。
いつも美琴とじゃれているときの顔は幻想だと言わないばかりの、下卑たモノだった。
歪んだ、彼の唇。
「っ……!」
ゾクリ、と身体が震え、白井は己の身体を両腕で抱え込んだ。瑞々しい唇が、強く噛み締められる。
昨夜、そこに重ねられた感触を思い出してしまったせいだ。
(……本当に、下衆な……)
美琴のため。
そう覚悟を決めた自分をあざ笑うかのように、唇だけが奪われた。
それ以上は、明日だ。
彼の言葉。すなわち、今日である。
勢いというものがある。短慮とも言えるが、決断を下すときや、覚悟を決めるときには、大きな後押しになるものだ。
だがそれも、こうして時間を空けられてしまえば、文字通り勢いを失わせてしまう。
決意は鈍り、覚悟は揺らぐ。
間違いなく、自分がこうして葛藤することを見越してのことだろう。
(……お姉様)
きゅっ、と両手を握る。
敬愛する存在。彼女のためなら、命すら惜しくないほどの。
きっと美琴は、このことを知れば哀しむだろう。いや、それだけでは済まないかもしれない。
心を失い、下手をすれば……
「っっっ」
最悪の想像に行き当たり、白井は今度こそ背筋を凍らせた。
だめだ。
そんなこと、させるわけにはいかない。
彼の本性も、自分の身に今から起こることも、絶対に隠し通してみせる。
しかしその悪寒が、揺れかけていた覚悟を、再び決然と固める要因となった。
お姉様は、わたしくが護ってみせる。
白井はシャワーを止める。
ポタポタと水滴の落ちる前髪の奥で、悲壮な決意の灯った瞳が、ここにはいない彼を睨み付けていた。
約束の時間まで、後、2時間。
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