25:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage]
2011/08/28(日) 02:17:01.65 ID:7L728IKno
「何にもないよ。何かあったらみんなに相談してるよ?」
私は今までみんなの前で嘘なんて一度も吐いたことがない。
嘘なんて吐いたところで見破られていた。
だけど、二人は顔を見合わせて「唯がそういうなら仕方ないな」と言った。
「まあ唯のことだし、嘘ついてたら一発でわかるよ」
りっちゃんはそう言ってストローに口をつけて笑った。
私も一緒に笑おうとしたけれど、たぶん口元は引き攣っていただろう。
だけど、二人はそれにさえ気付かなかった。
違和感を覚えているのは私だけだった。
********************
二人と別れたあと、私は家路を急いだ。
家に着くなり洗面所に掛け込んで、鏡の前で自分の顔を確認した。
私の顔は一年前と何にも変わっていない。
変わっていない。
変わっていないはずだ。
ゆっくりと口角を上げてみる。
その笑顔も私が今まで見てきたものだ。
ただ、瞳だけは笑っていなかった。
この瞳には今まで色んなものを映してきた。
たぶん、それは楽しいことや嬉しいことばかりだったんだ。
この一年間、私はこの瞳にさわちゃんばかりを映してきた。
そして、一緒に居たいがために二人でたくさんの嘘を吐いて、時には瞳の色を変えてきた。
私が吐いた嘘、
さわちゃんが吐いた嘘、
全部、この瞳は知ってる。
「……っ、……うぅ……」
怖くなった。
この一年ですっかり嘘が上手くなった自分は、同時に色んなものを失っていた。
子供という枠組みから外れて、大人という場所に手を伸ばした私はもう完璧な子どもには戻れなくなっていた。
大人になりたいのに、なりたくないという矛盾。
嘘が上手くなりたいのに、いざ嘘が吐けるようになると途端に感じる恐怖。
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