114:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2011/09/05(月) 01:04:48.15 ID:wbDVTs5Go
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待合室に戻る。風邪が治ってからは、思考が妙な方向に流れ出すことはなくなった。
彼はそのことを不思議に思わなかった。たぶん、それは当然のことなのだ。
彼は今までどうでもいいことで悩みすぎた。根拠のない劣等感に悩まされていた。
でも本来はそんなことはどうでもいいことなのだ。苦悩は常に自己陶酔でしかない。
妙に晴れ晴れとした気持ちで、彼は長椅子に座る。窓の外から赤い西日が差し込んでいる。
足音に気付いて顔をあげると、ムラサキがいた。
「……隣、いい?」
多少怪訝に思いながらも彼は頷いた。隣に座ってからというもの、ムラサキは何をするでもなくただ落ち着かなさそうにしていた。
彼女はしばらく押し黙っていた。彼は何も言えなかった。結局、沈黙が横たえる。
こういうことだ、つまり。何がどうなるかは誰にも分からない。次に何があるかも誰にも分からない。
ただ刻一刻と変化は続いていく。何かが変わり続けるのだ。
ムラサキが隣のやってくるように。
そうしてすぐにいなくなるように。
彼女がふと顔をあげた。それまで何かを思いつめたような表情をしていたにも関わらず、彼女の表情に深刻そうな色はなかった。
かといって楽しそうでもない。苦しそうでもない。ただただ無表情で無感情なのだ。
ムラサキは口を開いて、すぐに閉じた。
言いたい言葉がようやく見つかったのに、それをすぐに失ってしまったみたいに。
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