622:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[saga]
2012/10/01(月) 19:24:26.17 ID:paqY8j4T0
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「……」
どこか遠くで、気のせいかのように幽かに鳴った笛の音に、女性は目を覚ました。
疑うように天井のぼろついた梁を見流し、起き上がる。
ベッドの中でも、金色の髪は括られたままであり、衣服も返ってきた装いそのままである。
女性は腰掛け、耳を澄ませることに徹した。
が、すぐにそのような甘い考えは振り払う。
(すぐにここを発たなきゃ)
気のせいならば休息を。などと気を抜いて、寝ている間に死ぬなど、冗談ではない。
女性は眉の薄く、しかし眉間の皺のでき易さが疑い深さをよく表すように、慎重な人物だった。
疎開・逃亡の旅に供も連れずに遠距離を渡り、国を2つ跨いでここまでやってきた。
応戦は控え、目くらましや混乱程度のために魔術を行使する、切り札は伏せるようなタイプの人間だ。
(もとの屋敷の持ち主には悪いけど、荒っぽい脱出をさせてもらうわね)
長年の湿気でカビついた窓を蹴って開き、扱いやすい長さのワンドを片手に、そこから飛び降りる。
4mはあろう一階の屋根に着地すると、瓦は砕けたが、つきぬけはしなかった。
魔力で強化された脚は衝撃にも怯まず、そのまま体を地上へ投げ出した。
その時、声は聞こえた。
「アォオオオオオォオオオン……」
「……!」
耳をそばだてずに正解だった。
窓から出て正解だった。
遠吠えの反響の具合を確かめる前に女性は走った。そして、その行動もまた正解であった。
狼は近い。一刻も早く、逃げなくてはならなかった。
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