626:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[saga]
2012/10/02(火) 19:54:15.87 ID:k/tWTwTW0
女性の足は、早くも遅くもない。
ただ、最短距離を導く頭の冴えはあった。
彼女は斜面を降りるように逃避していた。
およそほとんどの獣は、斜面を駆け上ることは得意でも、下ることにかけては不得手だ。
聞こえてきた狼の遠吠えから、女性は大通りのルートとはまた違った、多少逸れていても、安全に狼達を振り切れるルートを選択したのである。
(……それにしても、猟犬のような獣なのかしら)
女性は余った思考回路でごちる。
十何日にも及ぶ移動生活の中、突然現れた獣達の群れ。
奴らは宵闇に紛れて忍び寄り、連携の取れた動きで襲い掛かってくる。
最初こそ野犬かとも思ったが、似たような獣に何度も襲われるのだ。
魔術で撃退したのは最初だけ。二度目以降は逃げに徹している。
慎重さは、それらの不自然さと、例の事件からきていた。
「アォオオンッ」
「え」
鳴き声が近い。
いいや、近すぎる。
滑るように走っていたはずだ。追いつかれるようなヘマをした覚えはない。
しかし。
「ォオオンッ」
「アォオオン」
鳴き声はやまない。
それどころか、近くにいくらでもいるかのように、そこら中から聞こえてくる。
後ろからではない。
横からも。前からさえも。遠吠えが遠吠えを呼ぶ。
「や、やだ……!」
歩みをやめた女性が耳にするのは、狼達の合唱。
ひとつの山中に響く、恐ろしい唱だった。
「おっと、もう終わり……もうちょっと粘ってくれると思ったのに」
高い木の上で、ポンチョ姿の男がため息をついた。
777Res/365.21 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。