18: ◆3/LiqBy2CQ[sage]
2011/09/15(木) 20:13:32.60 ID:+wTNpPwyo
  
  
 ――何度か唯ちゃんの視線を感じながら、いつもよりちょっとだけ彼に好意的に接し、背中を見送る。 
 ちゃんと会社を休む旨も伝えた。もう後ろ髪引かれるものなんて何もない。ここから先は、唯ちゃんとの時間。そう思うだけで胸がときめく。 
  
 ……昔もそうだった。唯ちゃんを見ているだけで、唯ちゃんと一緒の時間を過ごせるだけで、全てが輝いていた。 
 もちろん、唯ちゃんが他の誰かを好きになったりしないだろうか、と不安に駆られた事も多い。でもそういうのも含めての恋愛沙汰だと思っているし、そういう不安に後押しされて気を引こうと行動しちゃう私もまた本当の私なのだ。 
  
 ……思えば色恋沙汰であたふたしたり、悶々としたりしたのは、唯ちゃん相手が最初で最後。 
 今の彼とは、本来愛すべき異性の彼とは、そういうのは一切無い。 
  
 紬「……普通の恋愛に…恋愛そのものに、憧れてたのになぁ……」 
  
 澪ちゃんのメルヘンな歌詞を笑えない程度には、私は恋に恋する乙女だった。 
 なのに私の胸の中に残るのは、想いを伝えることさえ出来なかった唯ちゃんとの日々ばかり。 
 振り返ってみれば結局、私の中にはあの日から結婚するまでずっと唯ちゃんがいた。友情から親愛へ、そして恋愛感情へと順当に根を張っていき、互いのカラダとココロが成熟していくにつれて時には性的な意味で唯ちゃんを欲したくもなった。 
  
 大学を卒業し、皆と道を別ってからは、唯ちゃんのことを想いながら自分を慰める日々が続いた。 
 半年前に結婚してからは性欲は彼との行為で解消した。唯ちゃんに対する想いは捨て置いたのだからそれは仕方ない。仕方ないことなんだ。 
 そう思っていたのに、私は手首を切る道に逃げた。そう、私が手首を切り始めたのは結婚して、性交渉というものを経験してからだ。何故だろう? 
  
 男性との性行為の汚さに幻滅した? 
 唯ちゃんを諦めたことが私の中で尾を引いていた? 
 それとも両方だろうか。唯ちゃんを諦め、傷心の私は最悪のタイミングで男を知ってしまった。故に男性が醜く映る、とか。 
  
 真実はわからないけれど、説得力自体は最後の説に最もあるように思える。 
 唯ちゃんを想って性欲を満たしていた頃の方が美しく映って、唯ちゃんを忘れてただ義務的に満たす今は汚く映るのだろう。 
 要するに私は、愛が欲しいのかもしれない。愛を思い出したいのかもしれない。 
 他の人はどうかわからないが、性的快楽を知ってしまった今でも、私は性欲には愛が追従するものだと思っている。そうでないといけない。そうであってほしい。そんな主観に満ちた希望的観測でもあるけれど。 
 だからこそ、そんな主観に反する今の毎日は腐って映るのだ。むしろそれを契機として毎日が腐り落ちていったのだ。毎日に何も楽しみを見出せなくなってしまったのだ。 
  
 ……ならば唯ちゃんはどうなのか? とふと思う。唯ちゃんだって年頃……を少し過ぎたくらいの年齢の女の子だ。性欲と無縁ではいられないはず。 
 今でも昔と変わらず天真爛漫な唯ちゃんが自慰をしているところなんて想像できないけれど、でも先程少しだけ現在の話題に触れたときは「彼氏はいない」と言っていた。いたこともない、と。 
 唯ちゃんもずっと私を想ってくれていたのだと嬉しくもなるけれど、同時にそんな唯ちゃんは性欲と愛情と毎日の輝きにどう折り合いを付けているのか、気になって仕方ない。 
  
 紬「………」 
  
 そういえば猥談ってしたことないなぁ、とか思いながら、タオルケットを被っている唯ちゃんに近寄り、声をかける。 
  
 紬「…唯ちゃん? もう起きていいよ?」 
  
 唯「………」 
  
 紬「……唯ちゃん?」 
  
 返事が無いのでタオルケットをめくってみると、その下の顔はそれはもう気持ちよさそうに熟睡していた。 
 思い返してみれば寝ている途中の唯ちゃんを叩き起こしたのは私だ。それからずっと眠かったろうに嫌な顔一つせず私に付き合ってくれたんだ。ここで寝てしまっても責めることはできない。 
 猥談の類が出来なかった残念さはあるけれど、起こすのも忍びないなぁ……と思っていると、唯ちゃんが寝返りを打ち、タオルケットが床に落ちる。本人はギリギリでソファから落ちなかったのが救いか。 
 拾い上げ、もう一度かけなおしてあげようかとしたところで……私の手は止まってしまった。 
  
 唯「……んぅ……ん…」 
  
 紬「…っ……」 
  
 少し乱れた唯ちゃんの衣服。シャツはめくれ、かわいいお臍が顔を覗かせていて。高校から大学へと進学するにつれて順調に成長していった形のいい乳房は呼吸に合わせて大きく揺れていて。 
 艶かしい唯ちゃんをどれだけ見つめていただろうか。自らの生唾を飲む音に我に返る。 
 そう、目を奪われ、生唾を飲む程度には、私は唯ちゃんの肢体に欲情していた。 
 ここ半年の、彼に求められて身体が反応する形の欲情とは違う、私が欲する、手を触れたいと思う、胸の奥から湧き出てくる肉欲。唯ちゃんを忘れると決意した日からずっと忘れていた、胸の奥から下腹部に伝わる疼き。愛情ありきの、性欲。 
  
 タオルケットを床に投げ捨て、衝動のまま、唯ちゃんの両の乳房に手を添える。 
 だが、シャツの上からでも伝わるその柔らかさに溺れる間もなく、ある物が目に入り、私は正気に戻る。 
  
 左手薬指の、結婚指輪。 
  
 ……そうだ。愛してはいけない。もう否定できないほど唯ちゃんのことを再び好きになってしまっているけど、それでも愛してはいけないんだ。 
 愛してしまうのは、唯ちゃんにも失礼だ。唯ちゃんを困らせるだけだ。これ以上は…絶対にダメ。 
  
 両手を離し、一歩引く。愛欲を理性で必死に押さえ込み、一歩一歩後ずさる。 
 だが充分すぎる距離を取っても、私のナカの疼きだけは治まらない。その場に座り込み、自分の下着の中に手を入れる。 
  
 紬「んっ……ぁ……」 
  
 自分で感じる、自分自身の湿り気。唯ちゃんを見ながら、自分自身に触れながら、指で擦りながら、どこかで私は思う。 
 これが唯ちゃんの手なら、指なら、どんなにいいか、と。唯ちゃんが私を見てくれてたら、どんなにいいか、と。 
  
 ――結局その行為は、ほんの僅かな時間で、表面だけの優しい刺激で、私に終わりをもたらした。 
  
  
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