過去ログ - アイリス「さよなら、ジャンポール」
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12:ny[saga]
2011/10/19(水) 21:08:51.73 ID:oNEfTHUU0
意味のない会話だった。
アイリスには軽いテレパスがある。
その気になれば、アイリスは自分に起きた事の全てを知ることが出来るだろう。自分に起きた異変さえも。
だが、その場に居た全員、自らの口から事実を告げる事は出来なかった。
アイリスを不安にさせたくないし、何より、何も分かっていない状況で何を言えというのだろう。
途端、何かを思い付いたらしく、アイリスが大神を呼んだ。

「ねえねえ、お兄ちゃん。ちょっとこっちに来て」

何事かと思い、大神はアイリスの方に身体を寄せる。
瞬間、鋭い表情をしたマリアがアイリスの頭を掴み、ベッドの布団に顔を埋めさせた。

「マリアっ?」

唐突な事態に動揺して大神は言ったが、マリアが厳しい表情のまま叫んだ。

「隊長、気をつけてくださいっ! アイリスは刃物を持っていますっ!」

「なっ……?」
 
まさか、そんな事があるはずがない。
アイリスがそんな恐ろしい事をするはずがない。
大神は必死でマリアの言葉を否定しようとするが、思わず見てしまった。
アイリスの右手には、どこから取り出したのか、確かに刃渡り五寸もの短刀が握られている。
否定しようがない事実だった。大神は思わず後退する。

だが、当然それだけでは、終わらなかった。
何らかの力に弾き飛ばされたように、マリアがアイリスの身体から引き離される。
その力があまりに巨大な力だったのか、マリアは途轍もない速度で壁に叩き付けられていた。

「ぐっ……」

相当の痛みを伴ったのだろう。マリアが苦しそうに呻いた。
それでも、マリアは絶叫した。

「隊長っ! アイリスから離れてくださいっ! 速くっ!」

マリアが何を言っているのかは、大神にはよく分からなかった。理解したくなかった。
しかし、幾度もの戦場を潜り抜けた大神の本能が、叫んでいた。
逃げろ、と。
認めたくはなかった。だが、認めざるを得なかった。
アイリスが、自分の小さな恋人が、まさしく今、自分を殺そうとしているのだと。
拳を握り締め、震える身体を必死に抑えて、
だが、それでも大神の士魂は逃げる事を許さなかったし、
何より大神自身がアイリスの異変を放っておく事など出来なかった。出来るはずがなかった。

「隊長っ! 急いでっ!」
 
必死にマリアが叫んでいる。マリアの気持ちは痛いほど分かる。
されど、逃げるわけにはいかないのだった。
自分は前に出るのだ。
アイリスに何が起こっているのかは分からない。
それでも、自分はアイリスを止めなくてはならない。
だからこそ、自分は足を踏み出さねばならない。

だのに、大神の足は動かなかった。
決して恐怖からではなかった。そんなものは超越している。
アイリスのためなら、命だって投げ出す覚悟はとうの昔に出来ているのだ。
しかし、やはり大神の足は動かないのだった。
それは無論、大神の恐怖のためではない。
足が何らかの物理的な力で押さえ込まれているのだ。
まるで誰かに強く足を掴まれているかのように。
その様子を見て、漆黒の笑みでアイリスが嗤った。

「あっはははハははははハ!」

先刻のあの声だった。
冷酷さと残酷さを兼ね備えた、真っ黒い笑みだった。

「てめえは其処、俺は此処だ」

その声は間違いなく、アイリスの口から発されている。
アイリスではない表情、声色で、アイリスが言っている。
さくら達は驚愕して、何も言えないようだった。
カンナこそアイリスの変貌振りに不自然さを感じ、
アイリスに飛びかかろうとしていたようだったが、
大神と同じように足が動かないらしく、悔しそうに唇を噛んでいた。


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