156:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2011/10/29(土) 01:14:01.08 ID:veqilnkN0
   「ナンバーX。警察はそう呼んでいる」 
    
   そこには、汀と同じような白髪の、十七、八歳ほどと思われる少年の写真があった。 
   囚人服姿で、名前を書かれたプレートを持っている写真だ。 
   名前の欄には「X」と一単語だけ書かれている。 
    
   「見ない顔だな」 
    
   「そこまでの情報はないのか」 
    
   「探りあいは止めよう。俺は、お前から得られる情報を一切信用していないからな。探り合いってのは、対等な条件で行うもんだ」 
    
   そう言いながら資料をめくり、圭介はしばらくして、大河内にそれを放って返した。 
    
   「で?」 
    
   「OK、最初から話を始めよう……」 
    
   コーヒーに口をつけ、大河内は続けた。 
    
   「先日、その少年が赤十字の施設を脱走した」 
    
   「へぇ、『施設』ね」 
    
   圭介は冷たい目で彼を見た。 
    
   「『収容所』の間違いじゃないのか?」 
    
   「喧嘩を売っているのか?」 
    
   「事実を述べたまでだ」 
    
   「…………その子に、名前はない。施設では十番目のXをつけられていた。つまり、GMDサンプルの第十号だ」 
    
   「…………」 
    
   「脱走を手伝った組織も、方法も分かっていない。警察が動いているが、公にしていない情報だ」 
    
   「だろうな」 
    
   息をついて、圭介は言った。 
    
   「つまり今の状況は、飼い犬に手を噛まれた状況と同じってことか?」 
    
   「……そうなる」 
    
   「傑作だな。赤十字の施設が、秘密裏に育てたマインドスイーパーに、肝心のマインドスイープを妨害されてるなんて、新聞社にこの情報を売りつけたら、いくらで食いつくだろうね」 
  
   大河内が顔を青くして、また身を乗り出す。 
    
   「やめろ。全てを台無しにしたいのか?」 
    
   「俺もそこまで馬鹿じゃない。冗談だ」 
    
   とても冗談とは思えない淡々とした声で圭介は言うと、水がなくなったグラスを見つめた。 
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