77: ◆qvIZyIvV7w[saga]
2011/11/27(日) 23:52:56.88 ID:+zUUnEcZ0
「……あかり、追いかけなきゃ」
どっちも酷い顔してるよ。
結衣先輩がそう言って、抱きついたままの私の身体をぽんっと前へ押し出した。
振り向くと、結衣先輩は仕方ないなあ、というふうに笑っていた。
私の、初恋の人。
私もいつか、こんなふうに優しい人になれるといいな。
今はこんなにも、自分のことで精一杯。
今恋してる人に対してもきちんと向き合うことができないまま。
だから私は走り出す。
あかりちゃんの元へ。
「あかりちゃんっ」
校門を出たところで、あかりちゃんを掴まえた。
あかりちゃんの肩と、それからお団子が小さく震えて。
おそるおそるというように振り向いたあかりちゃんは、私を見て泣きそうな表情になった。
「ちなつちゃん」
「ご、ごめん……私、ほんとは、嘘で……」
「嘘、なの……?」
「あ、当たり前だよ!私、今は、ほんとにあかりちゃんのことしか、見えてなくって――!」
こんなこと言うなんてすごく恥ずかしい。
走ったせいもあって息もあがってて、きっとすごく真っ赤なんだろう。目も当てられないくらいに酷い顔をしているに決まっている。
「……ちなつちゃん」
「あ、あかりちゃん?」
突然、目の前が真っ暗になった。
真っ暗になったのはすぐそこにあかりちゃんの肩があるからで、あかりちゃんに抱き締められているのだと理解するまでに数秒を要した。
「……あかりね、すごくこわかった」
「こわかった……?」
「ちなつちゃんが、あかりのこと嫌いになっちゃったのかなぁって」
「そ、そんなわけないっ!」
あかりちゃんに抱き締められたまま、私は必死になって答えた。
そんな私に、あかりちゃんは「うん」と言って笑ってくれた。
「こんな気持ちになったのは初めてで、どうしようって思っちゃった」
「……ぶつけてくれてもよかったのに」
「え?」
「溜め込まずに、私にぶつけてくれてもよかったのに」
あかりちゃんは「……でも」と戸惑ったような声を出して。
私はずっと、それを待ってたんだから。
いやなことははっきりいやって言って。
だめなことははっきりだめって言って。
あかりちゃんとちゃんと、向き合いたいよ。
ぶつかりあって、それでもっともっと一緒にいたいよ。
だけど、少しだけでもあかりちゃんの本音を聞けた。今はそれだけでも十分だ。
「ねえ、あかりちゃん。好きだよ」
「えへへ、あかりも好き」
ほら、あかりちゃんはまた私の聞きたい言葉を返してきてくれるけど、もっと自分の言葉で。
「……ううん、違うかも。あかりはちなつちゃんのこと、大好きだよ」
たまにの反則。
あかりちゃんはいつも私に優しいけど、私の心臓には優しくないのかも知れない。
どきんとして、私はぎゅっとあかりちゃんの肩に顔を押し付けた。
「もう……」
「えへへ」
終わり
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