過去ログ - 空「楓さがし」
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81:にゃんこ[saga]
2011/12/29(木) 19:42:35.28 ID:BSON+2tX0
そんないい写真なのに、三次さんは寂しそうな表情を浮かべている。
大好きな沢渡さんの大好きな写真なのに……。
でも、ワタシにも三次さんの気持ちはちょっと分かった。
きっと三次さんの中では沢渡さんが一番なのだ。
一番だから、複雑な気分になって、一番だから、寂しくなってしまうのだ。
そして、三次さんがそれを沢渡さんに伝える事は、多分無いだろう。
それは本人に伝えてはいけない事だからだ。
だから、三次さんはその寂しげな表情をすぐに笑顔で隠すのだ。

「あっ……。
昨日は気付かなかったけど、これ『たまゆら』じゃないかな?」

不意に三次さんが笑顔で写真を指し示した。
たま……ゆら……?
三次さんの示した写真の箇所には、小さくて丸い何かが写り込んでいた。
沢渡さんの友達が三人並んだ写真の足下の方に一つだけ写り込んでる何か。
心霊写真……?
魂が揺らぐから、たまゆら……?

「『たまゆら』って何だい?」

クリハラ先輩が首を傾げて三次さんに訊ねる。
緊張したのか、三次さんが少し頬を赤く染めて、小さく口を開く。
でも、それより先に沢渡さんが言葉にしていた。
その説明は自分に任せてほしいという感じだった。

「『たまゆら』って言うのは、優しい気持ちが溢れてる時に写真に写る物なので。
昔、写真が好きだったお父さんが教えてくれたんです。
でも、本当だね、ちひろちゃん。
何度も見返したはずなのに、この写真のたまゆらには気付かなかったので。
気付かせてくれてありがとう、ちひろちゃん」

そう言って沢渡さんが微笑むと、
「どういたしまして」と三次さんが照れたように頬を染める。
なるほど。それがたまゆらなのか。
沢渡さん達の様子を見て、クリハラ先輩も優しく微笑む。
気付けば、ワタシも何となく笑顔になっている気がした。
優しい町で写す事が出来る優しい気持ち。
それがたまゆらなのだろう。

と。
沢渡さんの言葉が耳に入っていたらしいネギシ先輩が、
ワタシ達の後ろからたまゆらの写っている写真を見ながら軽く呟いた。

「ん? それって光の反射じゃ……」

「そいやっ!!」

「ぐはっ!!」

最後まで言い終わる前に、クリハラ先輩の拳がネギシ先輩のお腹に直撃していた。
突然の事に沢渡さん達は驚いていたみたいだったが、
クリハラ先輩が笑顔で「気にしないで」と言う事で困った様に微笑んだ。
ネギシ先輩は若干憎々しげにクリハラ先輩を見ていたけれど、
それ以上何も言わずに軽く肩を竦めていた。
ネギシ先輩も自分の言葉が失言だったと気付いたのだろう。

ネギシ先輩が言うように、たまゆらの正体は光の反射なのだろう。
それくらいはワタシにも分かる。
でも、沢渡さんのお父さんが、
優しい気持ちが溢れた時に写る物がたまゆらだと言うのなら、それでいいのだと思う。
いつもはキレやすいネギシ先輩が素直に黙っているのも、きっとそれを分かっているからなのだ。

でも、たまゆらか。
ワタシもいつかスケッチブックに描いてみるのもいいのかもしれない。
写すのと描くのでは全然違う気もするけれど、
いつか優しい気持ちに溢れる事があれば、その時には描いてみたいと思う。


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