過去ログ - 俺の妹がこんなに可愛いわけがないSSスレ Part.12
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或る災難
◆ebJORrWVuo
[saga]
2012/06/24(日) 01:18:54.98 ID:TPid8TO+P
「くそっ! 見つけたら説教してやる、そんで防犯ブザーを持たせてやる!」
あいつに馬鹿にされようと、防犯ブザーを持たせるという決意を固めながら、俺は駆けまわる。正直、もう体力的には限界だった。30分も全力疾走しているのだ。
足は立っているだけでガクガクしてくるし、呼吸もできているんだかできてないんだが分からないような有様だ。
だが、俺の足が止まる事は無かった。
どれだけ、探しまわっただろうか。
もう太陽は、その身体の殆どを地面に隠してしまっていて、夕方が終わり、夜を迎えようとしていた。未だに、桐乃は見つけられていない。
流石に体力の根を使いきってしまった俺は、近くの壁に持たれ掛かるようにして、休息していた。
あやせはまだ探しているんだろうか。だとすれば、そろそろ帰らせる必要がある。これであいつまで失踪された日には、目も当てられない。
……正直に言えば、それであっても探して欲しかった。だが、……無理をさせる訳にも行かない。決意を新たに、あやせへと電話を掛ける。
呼び出し音が鳴り響く間も無く、あやせが出た。
「あやせ、どうだ、見つかったか?」
「いいえ。そう言うという事は、まだそちらも見つかってないんですね」
「ああ。……あやせ。もう空も暗くなってきた。おまえは家に帰って――」
そうあやせに伝えようとしたタイミングで、桐乃の声がした気がした。
「お兄さん、何を言ってるんですか! この状態で家に帰れる訳がないでしょう!」
あやせの怒鳴り声が遠くで聞こえる。自然、携帯電話を耳から離していた。そして周囲を見渡す。
周囲に人気は無い。寂れた倉庫街。だが辺りが暗くなって分かったが、一つの倉庫に電気がついている。そこの入り口には、男が二人立っているが、
どれも若い格好をしていた。警備員にしては格好が、全然らしくない。
耳を澄ますと、その男二人が話している内容が、微かに聞こえた。
「……った…、兄…兄貴って…っせ…な、…の女」
「ほんとっ…ね。見て…れはすっげえ…が、性格……対…にすっげえ…よ…」
「ああ。った…、リ…ダーも妙な女に…をつけ…もんだぜ」
―――。
気付いた時、俺は二人を黙らせていた。
頬と腹が痛い。殴られたのだろうか、分からない。ただ、俺の足元で、二人が呻き声を上げて倒れている。手が痛い。だがそれよりも俺は倉庫の中を気にしていた。
音を気付かれただろうか。それなりに騒いでしまった気がする。だが、幸いにして倉庫の壁は厚そうだ。扉の前でさえ、中の声が微かにしか聞こえない。
という事は逆も然り。こちらの音は殆ど聞こえてないという事だ。
……中で幾ら騒いでも周囲に気付かれる事が、無い倉庫か。
ギリッ、無意識に歯を噛み締める。そして、扉の隙間から、中を覗く。
隙間からだけじゃ倉庫の全容は掴めないが、中々の広さがあるようだ。隙間から見るだけでも、男の姿が複数見える。十人は超えていそうだ。
中には、金属バットのようなものを見ている奴も見つけられる。
そしてその中心で、男が一人の女を押さえつけていた。
カッ、と視界が真っ赤に染まる。知っている、その女を俺は知っている。
両手に力を篭めて俺は扉を開く。重い扉、だがそんな事はどうでも良かった。
俺の考えている事は唯一つ。
俺の妹から、その薄汚ねえ手を離せ。
扉が、開く。すると、一斉にその集団がこっちを向く。
推定通り、十数人。どれも高校生ぐらいの男だ。同じ髪の色が無いんじゃないかというぐらいに、各々髪を染めている。
一見して、不良と分かる格好をしているそいつらは、突然の闖入者に、怒気と殺気を向けていた。
不思議と、恐怖は無かった。俺はその空間に、そのまま足を踏み入れる。無論、桐乃に向かってだ。近づくにつれて、桐乃の姿がしっかりと見える。
この集団では珍しく、髪を染めてない、だが一目でヤバそうだと分かる男が、桐乃を抑え込んでいる。……まだ桐乃の服は、乱れていない。
だからといって何もされてないと判断するには早計だが、少し安堵する。少なくとも、何かされたという確定では、無いからだ。
「おい、テメエ! なにもんだコラ! 誰の許可を得てここに入ってきてんだァッ!?」
連中の一人が騒ぎ出す。しかし、ガン無視。視線すらくれてやる必要がない。
ただ、妹の元へと歩いて行く。
桐乃も、俺の存在に気付いたようだ。目が驚きに見開かれている。
俺は桐乃に声を投げる。
「ったく。この迷子が。くそ探したぞ。……ほら、帰んぞ」
場にそぐわないぐらい、普通の口調で、普通の音量で。俺は桐乃に話しかける。
「なっ……あ、あんた、状況分かってんの!? な、なんでここに……つか、に、逃げて!」
妹が理解不能な事を言っている。訳が分からない。逃げる? 何を言ってるんだ。
ここで逃げられる筈が、無いだろう。
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