過去ログ - 俺の妹がこんなに可愛いわけがないSSスレ Part.12
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756:或る災難 ◆ebJORrWVuo[sage saga]
2012/06/24(日) 01:22:06.94 ID:TPid8TO+P
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 全力で、走る。それが、今のあたしに出来る精一杯。
 いつもは走っていると途中で頭が真っ白になって、そして凄く心地よくなる。あたしにとって都合の悪い現実を出しぬいたような気分が味わえて、この瞬間だけ、あたしは開放された気分になる。
 けど、今は違った。気持ちだけが焦っていく。もっと早く前にと、焦ってしまう。罪悪感と焦燥感でごっちゃになって全然気持ちよくならない。

「くっ、なんだっての!」

 それでも足を止まらせない。走る。兄貴に証明してみせる。そして――一秒でも早く、兄貴を助けに行かなきゃ!
 カバンは置いてきた。持ってくる余裕なんて無かった。というかどこにあるか分かんなかったし。だから、あたしは走りながら、助けを呼べる手段。公衆電話を探していた。
 背後はまるで気にしていなかった。誰かが追いかけてくるなんて、想定してなかった。だってあたしの足に追いつく人間なんていないし、……兄貴が、俺に任せろという表情をしていたから誰もあたしを追いかけさせないと分かっていた。普通に考えれば、十数人を相手に、そんな事が出来る筈が無いのに。
 つか、あいつ、馬鹿、ホント馬鹿、なんなの、なんでなんでなんで。
 涙が出そうになってしまう。走らないと行けないのに、口から嗚咽が出てしまう。駄目だ、考えちゃいけない。置いてきてしまった兄貴を、今は忘れる。そうしなくちゃ、引き返したくて堪らなくなってしまう。それじゃ駄目だ、あたしじゃ、兄貴を助ける事が出来ない。
 でも、思考が止まらない。ぐちゃぐちゃになる。いろんな葛藤があたしの中で渦巻く。走らなきゃ、走らなきゃ、走らなきゃ――。
 普段の練習が、あたしの足をもつれさせること無く進めてくれる。だがそれはとても、リアに勝てる速度じゃなかった。これじゃ、兄貴に証明出来ない。それは嫌だ。だから、走る。兄貴に見返す為に。証明する為に。
 恐らく、走ってまだ一分も経ってない所で、あたしは足を止めた。バテた訳じゃない。思考も呼吸も滅茶苦茶だったがたった1分走っただけで、バテてしまう程ヤワな鍛え方はしていない。ただ、視界の先に人が見えたからだ。それも自分の知っている人。こんな暗闇でも、ひと目で分かる。

「……あやせ!」
「桐乃!」

 そうそこに立っていたのはあやせだった。そしてあたしの姿を見つけるや否や直ぐに駆けつけて、抱きしめてくれる。孤独に震えそうだったあたしの身体は、温かい人の体温で癒された。
 だからだろうか、涙がぼろぼろとこぼれ落ちていく。

「あ、兄貴が、兄貴が……!」

 泣きじゃくりながら、必死で兄貴の現状を伝えようとする。
 あたしを見つけて喜色をあらわにしていたあやせの表情が、一気に硬くなる。

「お兄さん? お兄さんがどうかしたの?」
「あいつ、あたしを助け、て、今、何人も居るのに、あの馬鹿、囲まれて、あたしを、逃がして、今、今……!」

 駄目だ。思考が纏まらない。あやせに兄貴を置いて逃げたと思われてもいい。あたしとしては、兄貴を助ける為であってもそうは映らないだろうから。軽蔑されてもいい。それでもいいから、早く、現状を伝えたかった。

「状況は分かりました。桐乃、この携帯を使って」

 あやせがあたしに携帯を渡す。

「既に沙織さんと黒猫さんと麻奈実さんには声を掛けてあります。警察にも、要請は掛けてありますが、余り動いてくれていません。そんな深夜でもない為でしょう。ですが、こんな状況で動いてくれる警察の人をわたしは一人知っています。あいにく、連絡先を知らなかったのですが」

 あやせが言っている一人が、あたしには分かった。番号を調べるまでもなく知っている。

「……分かった、掛けてみる。ありがとね」

 あやせにお礼を言いながら、携帯を掛ける。その先は、当然、兄貴と同じぐらいに頼りになる、人物。
 あたしのお父さん、その人だった。



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