過去ログ - 禁書「イギリスに帰ることにしたんだよ」 上条「おー、元気でなー」
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489: ◆ES7MYZVXRs[saga]
2012/11/25(日) 02:12:44.36 ID:VBYVP1jFo



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きっかけは些細で、単純で、平凡なものだった。

少女は一つの事を除いては至って普通の子供だった。
学校では嫌々勉強に励み、放課後はみんなで公園で遊ぶ。
雨の日はトランプで遊んだり、マンガを読んだりアニメを観たりゲームをやったりした。

少女はどちらかというと外で遊ぶ方が好きだったが、マンガやアニメ、ゲームといったフィクションの中にも心惹かれるものを見出していた。
それは仲間同士の絆というものであり、大抵の作品で描かれているようなものだ。
どんなに強大な敵にぶつかっても、どんなに難解な問題にぶつかっても、仲間との絆さえあれば乗り越えることができる。
少女はそれに憧れた。眩しいくらいに輝いて見えた。
同時に、それを現実で見てみたいと切望した。

たまたま少女には力があった。
その力は、フィクションの世界でしか見たことがなかった、“本当の絆”というものが現実に存在するかを確かめることができた。
迷うことはなかった。
ただ自分の欲求に真っ直ぐ向き合う。それは子供にとっては至極当然な事だった。
少女はマンガを読んだりアニメを観ている時よりも、ずっとワクワクした。
もう少しで紙やテレビの中ではない、自分が生きるこの現実でそれを知ることができる、そう思った。


結果として、少女の周りにそんなものはなかった。


特に驚くことではない。
フィクションの世界での仲間との絆なんていうものは、現実では極めて希少だ。
その存在をはっきりと否定する者も少なくない。

誰もがどこかで気付くような事だ。
あの世界では当たり前に存在しているものでも、現実では到底ありえない事も多い。
朝登校していて口にパンを咥えた転校生とぶつかるなんていう事も、毎日お昼は屋上で食べるなんていう事も。
生徒会が強い権力を持っているという事も、初めは仲が悪かったクラスが卒業する頃にはみんな泣いて別れを惜しむという事も。

現実を見てみれば、学校の屋上は立入禁止で誰も足を踏み入れようとせず、同じクラスなのに結局一度も話さなかった人は居たり。
そんな事は大して珍しいことでもない。

それはただ、知るのが遅いか早いかの違いにすぎない。
たまたま少女はそれを知る機会が早かった、それだけの事だった。
それを知った所で、現実に絶望してビルの屋上や電車のホームから飛び降りるような子供は居ない。
現実はフィクションのように心躍るような事で溢れていなくたって、その中で自分なりの人生を楽しもうとする。

少女もまた、そういった現実を受け入れることができた。
フィクションと現実の違いに気付いても、そういうものなのかと割とすんなりと納得できた。
あれだけワクワクしたにも関わらず、ショックは小さかった。

その一方で。

マンガやアニメのような絆なんて存在しない。
そう知ったにも関わらず、その絆は前よりも身近にあるように感じられた。
それはなぜか。そしてそれに気付いた事が彼女にとって一つの大きな転機となる。

フィクションの中でしかありえない絆。
どんな時でも揺らぐことのない堅い友情や愛情。


それらは少女の手でいくらでも作り出せるものだった。

 


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