過去ログ - 禁書「イギリスに帰ることにしたんだよ」 上条「おー、元気でなー」
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612: ◆ES7MYZVXRs[saga]
2013/04/19(金) 23:04:29.90 ID:nvGs0I5wo

その音に、上条は大きな反応を見せなかった。
検診の時間にはまだ早い。という事は、おそらく扉の向こうには見舞い客でも居るのだろう。
こうして入院することになって、見舞いに来てくれる人が居るというのは喜ぶべきことなのかもしれない。

ただ、その相手は今の上条を心配して来たわけではない。
相手の思い出の中に居る上条当麻と、今ここにいる上条当麻は別人だ。
もう、相手のよく知る上条はこの世に居ない。これも一種の“死”というのだろうか。

そう考えると、気が滅入ってくる。
今ここにいる自分の存在は、即ち以前の上条当麻の死の証明である。
相手はどんな反応をするだろうか。今の自分を見て、上条当麻の“死”を確認して哀しむのだろうか。
今のこの上条当麻はいらない、早く以前までの上条当麻に戻ってくれと涙ながらに存在を否定されるのか。

ただ、無視することはできない。
だから、上条は小さく息を吸い込んだ後、短く「はい」と答えた。


ガラガラ、という音と共に一人の少女が病室に入ってきた。


白いシスターだった。
長く綺麗な銀髪に透き通ったエメラルドのような碧眼。
彼女は不安そうな表情を浮かべていたが、こちらを確認すると、微笑んで安心した表情を見せる。

短い沈黙が、二人の間を流れる。

そして。


「あなた、病室を間違えていませんか?」


上条は、まずそう言った。
目の前の外国人を見て、まずその疑問が頭に浮かんだからだ。

だが、すぐにそれは自分の思い違いだという事に気付く。

彼女は上条の言葉を聞いて、瞳いっぱいに悲しみの色を滲ませていた。
それでも、その悲しみを上条に悟られないように、彼女は精一杯笑顔を作っている。
それくらいは、今の自分にも分かった。

二言、三言、互いに言葉を交換しあう。

その度に、彼女の笑顔はどんどん崩れていった。
「俺達って知り合いなのか?」「俺って学生寮に住んでたのか?」「“とうま”って、誰の名前?」。
何もない自分は尋ねることしかできない。

それでも、彼女はまだこちらに尋ね続ける。
もう何も覚えていないことも、以前の上条当麻は死んでしまったことも。全て分かっているはずなのに。
「とうま、覚えてない?」と。


「インデックスは、とうまの事が大好きだったんだよ?」


彼女はすがるように、その言葉を紡いだ。
そして、祈るようにこちらを見つめ続ける。揺れる瞳を、必死に抑えながら。

上条は、答える。
「ごめん」と。


「インデックスって、何?」


その言葉に、ついに彼女の仮面が崩れたように思えた。
一瞬、懸命に持ち堪えていた笑顔は完全に崩れ、哀しみに満ちた表情が姿を現す。

ただ、彼女は強かった。

本当に崩れたのは一瞬だけ。
それからすぐに、彼女は再び笑顔を浮かべてこちらに向き合い続ける。
目は泳いで今にも涙が零れ落ちそうなのも分かる。それでも、彼女はクシャクシャな笑顔を向ける。


気付けば、口が開いていた。




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