過去ログ - 魔王「世界の半分はやらぬが、淫魔の国をくれてやろう」
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385: ◆1UOAiS.xYWtC[saga]
2011/12/14(水) 01:39:56.31 ID:NBSc6G9uo
そうして彼が向かったのは、玉座の間だった。
重厚なカーペットが敷かれ、壇上に金色の玉座が置かれた『王』の座する処。

一歩一歩、踏み締めながら向かう。
柔らかい感触がブーツの硬い底から伝わり、静かに音を立てながら歩いていく。
『彼女』の涙で濡れたシャツが、冷えて張り付く。
拭おうとも、着替えようとも思わなかった。
これは、『勇者』の身を心から案じてくれた、一柱の堕ちた女神が流してくれたもの。
『仲間』としてではなく、一人の『男』に対して別れを惜しんでくれた証。

ずっと塞がらない穴があった。
いつになっても隙間風が吹き込み、虚しく霜を降ろす心の一角。
そこに、何かがはまったような気がした。
傷が塞がった心は、もう寒くない。

玉座の壇前に立ち、しばし、目を閉じる。
今この瞬間は自らの座なのだが、それでも経験から染み付いた、心が引き締まる感覚。

しゅるり、と剣を抜く。
幾度と無く繰り返された抜剣の仕草は、今に至っても錆び付いていない。

刀身は未だ輝いていた。
白銀の刀身に、暁のように赤い光が不規則に射し込める。
それは、今この瞬間にも、勇者が『勇者』であり続けていることの証明でもあった。


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