過去ログ - アンリ士郎「あ、次の試合いつだっけ。」 嫁ライダー「安価で決めましょう」
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211:SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]
2011/12/11(日) 18:45:20.03 ID:qfndljiL0
 僕は、その時から、徒らに現在の状態に苦しむことをやめて、僕の眼を過去に向けることにした。
 僕は昔生きた足跡をもう一度歩き、そうすることによって、今、もう一度生きようと願った。
 追憶の世界に復ることは一つの逃避、現在からの脱出であろう。
 しかし、僕のようにもはや新しく生き得ない人間、束縛された日常を課せられている人間にとって、
 過去を再び生きることの他にどんな僕だけの生きかたがあろう。
 もし僕が悔いなく僕の青春を歩いて来たのならば、悔なく死に向って歩いて行くことも出来るだろう。
 僕が僕の生を肯定することが出来るならば、僕は僕の死を自ら肯定し、いわゆる人としての自由の死を選び取ることも出来るだろう。
 そして僕は、今にしてもなお解けない謎、愛するというこのことの謎を明かにして、微笑しつつ死ぬことも出来るだろう……。

 僕はそう決心した。
 そう決心した時に、僕の中でいつもがやがやと騒いでいた私たちの話声も聞えなくなり、
 煩悶も、迷いも、そして死の恐怖も、すべては一瞬に掻き消されてしまった。
 僕は一人だった。回想の世界に入れば、僕は自由に歩き廻ることが出来るのだ。
 思い出すことは生きることなのだ。
 そして僕は、憑き物の病を宣告されてから初めて、僕のそれまでの態度、内部へと閉じこもって、
 自らの創りあげた絶望と空しく闘っていた自分の態度が、ひどく馬鹿くさいものに見えて来た。
 僕は笑った。人が驚くほど、声をあげて笑った。

 さて、僕は決心した。しかし、恣(ほしいまま)に回想することは、しばしば人を誤らせ易い。
 過去の曖昧な印象を再び捉えるためには、それを紙の上に書きしるし、自ら冷静に記憶を定着して行く他にはないだろう。
 そこで僕は、街の売店から、この二冊の粗末な紙束を購って来た。

 そして僕は此所まで書いた。
 このあとに、僕は僕の過去から、自分の中で蠢く数多の私たちの声、性格、成り立ちetc……。
 各々を出来るだけ正確に把握してみたいと思う。
 僕を苦しめ悩ませてきた私たちを、僕は僕にとって可能な限り愛した。
 しかし愛するということの謎は、遂に僕に解くことが出来なかった。
 今、それが僕に解けるかどうかは分らない。
 僕はただこれをゆっくりと書くことによって、僕の死ぬまでの一日一日を、心おきなく生きられればそれで満足なのだ。
 もとより僕は物を書いた経験にも乏しいし、これを人に見せようと思って書くわけでもない。
 しかしどのように拙い文章であろうとも、僕は出来るだけ丁寧に、嘗ての僕の姿をこの紙束の上に書き記してみたいと思う。


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